短編[BL]

□拍手文SS
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<マサ+しん→ななこ>



しんちゃんが最初で最後、本当に荒れたときがある。

元々、上級生からも人気のあったしんちゃんは、すぐ素行の危うい仲間と関係を持つようになった。


悪い噂のたえない先輩とつるんで煙草を吸って万引きをして人を殴って。学校に来ることも少なくなった。

このままでは駄目だと思ったときには、すでに遅く。しんちゃんは停学処分になるまで先生から目をつけられていた。



「関係ないでしょ」

「しんちゃん…!」


もう、こんなことしないで。そう懸命にネネちゃんが説得しても、しんちゃんは絶対に首を縦には振らなかった。

そればかりか、押さえつけようとしたボーちゃんに殴りかかるほどしんちゃんは獣のように鋭い牙をボク達に向けたときがある。


「しんちゃん、ひまわりちゃんだって悲しむと思うよ」


そうボク達が言ったとしても、しんちゃんは鼻で笑うだけで言葉にすることも億劫なのかボク達から目を逸らした。

しんちゃんがこうなったのも誰が何が原因なのか。それを知るには安易に簡単過ぎてしまうほどの拍子抜け。



「…ななこさんが好きなら最後まで奪ってみせなさいよ!」


怒鳴ったのはネネちゃんの声。ネネちゃんは怒りと悲しみと自分には何もできない非力さに胸を強く握り締めていた。

強い女性。それが今のボクには何となく、こういう女の人のことを表現するのかな、とかどうでもいいことばかり考えていた。


「しんのすけ、お前の恋は長かったけど…だけど、お前の恋は僕たちにとっても恋だったんだ」

「風間くん、」


風間くんの小さな訴えに、はじめてしんちゃんがこっちを向いた気がした。ようやくボクたちの存在に気付いた、って顔だ。


「なに、それ」

「だから、お前ばっかりが苦しかったんじゃない。僕だって…僕たちだってそんなお前を見るのは苦しかった」


ななこさん、ななこおねいさん、嬉しそうに彼女に走り、彼女の言葉で一喜一憂する君をボクたちは知っていた。

ななこさんが結婚することも、ボクたちは君よりもはやくに知っていた。それで絶望するだろう君がいることもよく理解していた。


「…っ、あ」

「泣いていい、しんちゃん。泣きたいときは…泣くのが1番」



「ボーちゃ、ん」


広くもせまくもない腕をひろげ、小さなしんちゃんという温もりを両腕に包み込む。

ガタガタと震え、それから少し息を絞め殺す泣き声。こんな、しんちゃんを見たのは初めてだった気がする。



「お疲れさま」

ソッと、しんちゃんの頭にボクは手をおいた。優しく、よしよしと小さい子を慰めてあげるような仕草に、しんちゃんは苦笑いを浮かべた。


「マサオくん、ってば…くすぐったいぞ」


ふふふ、ボクをみてしんちゃんが笑う。ネネちゃんは「はぁ」と深い溜息を吐いて、それからしんちゃんの頬を少しだけ叩いた。


「反省した?」

「………はい」


それから、しんちゃんは素行が良くなる、とまではいかないけれど暴れるほど酷くはならなかった。むしろ前より少し優しくなった。

誰に対しても、とくにネネちゃんにたいしてはお姫様を大事にする王子様のように振舞うときがある。それには、ネネちゃんも満更ではないらしい。


「ホラ、ななこさんも心配してたんだから謝りにいくわよ」

「…ネネちゃん。ちょっと今日はやめない?見たいドラマが最終回で」


「…駄目!」


玄関前。この先には、ななこさんがいる。彼女もきっと待っていると思うと余計に、しんちゃんは怖くなったのだろうか。


「うう、マサオくん」



不安げな瞳、

ボクの名前を呼ぶ君の声を聞きながら、ほんの少しだけ君の背を押してあげるのだった。


end.

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