短編[BL]

□拍手文SS
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<マサしん>



しんちゃんは蝶だ

捕まえてもいつかきっと逃げてしまう気がする。


「野原先輩、一緒に、ご飯食べませんか?」

「おお、ごめんね!今日は先約があるから」


今日も、だよ。しんちゃん。そう心の中で呟きながら空をみた。

青くて綺麗。快晴。しんちゃんが1番好きな季節が巡ってくる。



「おまた!ごめんね、マサオくん、今日は屋上でご飯食べるぞ」

「うん、」


しんちゃんを待っているのは嫌いじゃない。けれど、言わない。

言ったら、しんちゃん、困った顔して笑うから。


「相変わらず、後輩の女の子にも人気者だね」

「よく見てよ、だって俺っていい男でしょ」


購買のパンを口に含み、ボクの顔を視界に映す。

しんちゃんは良い意味で無邪気、悪い意味で天然なんだと、思う。


そこも魅力的だと言ってしまったら終りだけど。



「ボクには、しんちゃんは男前と言うよりは可愛いってイメージかな」

「…そんなこと言うのマサオくんくらいだぞ」


「そうなの?」

「そうなの、」


ミルクパン。中に挟まれたクリームが、しんちゃんの唇につく。

親指でソッと舐めてとれば、しんちゃんは少し驚いてボクをみた。



「それに後輩の女の子が俺に近寄ってくるのって安全だからでしょ」

「安全?」


「ほら、俺ってば年下は論外だし。女の人として見てないから」

「…そうだね」


そっか、うん。しんちゃんは昔から年上のお姉さんが好きだった。

それは今も変わらない。けれど、しんちゃんはボクを選んでくれた。


これって夢?付き合った当初はそんなことを思っていた気がする。



「それに、ひまわりみたいな子ばっかだから妹にしか思えないもん」

「…ひまわりちゃん元気?この前、遊びに行ったら驚いてたから」

久し振りに訪れた、しんちゃんの家。シロもまだ元気で嬉しかった。



「…おお、あれね。だって、マサオくん昔と今じゃ全然、違うでしょ」

「そうかな?」


「顔中、傷だらけで背だって俺より高くて…怖がってたぞ、ひま」

「悪いことした?」


そう言えば、あの日は他校に絡まれて喧嘩をした翌日だった気がする。

風格だって昔と違えば、そりゃ…驚くだろうな。



「ん、でも…ひまわり喜んでたぞ。また遊びに来てねって言ってた」

「本当に?」


落ち込んだりへこんだり、忙しいな。ボク。けれど優しいしんちゃん。

「本当だぞ」くしゃくしゃとボクの髪を指先にとらえキスをする。


「好きだよ」

「知ってる」


しんちゃん。ボクは時々、何かの魔法にかかったんじゃないかな。

そう思ってしまうんだ。幸せ過ぎて怖いなんて、誰が言ったんだろ。



「幸せにするから」

「やだ、マサオくんてば俺…本気にしちゃうぞ」


「本気にしてよ」

「…、そういうマサオくんの素直なとこって俺には少し…痛いなぁ」


グッと掴んだてのひら

しんちゃんは蝶だ。捕まえてもいつかきっと逃げてしまう気がする。


end.
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