短編[BL]

□拍手文SS
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<武蔵野+しん>



ひやり、とした冷気が布団からはみ出した足にまとわりついた。6時にセットしていたアラームが鳴り響く。

寝起きの欠伸と一緒に「寒い」なんてことを考えていたら、もうすっかり冬なのだと思い知る。

「…しんのすけ?」


ふっ、とキッチンに目をやると見慣れた少年が爪先立ちしているのが見え隠れした。

朝から腹でも空いたのだろうか。がちゃがちゃ、食器のぶつかる音がするのだが買い置きのパンもなかった筈だ。

そもそも、しんのすけが家に来る予定だったのは昨日の夕方だったのだが。待っても連絡はないし、結局は朝になってしまっていた。


「しんのすけ、遅刻だぞ。もう朝じゃないか」

「来る途中、珍しい形の犬のふんを見つけたのでじーっと見てました」

「どのような形?…じゃなくてだな。連絡くらいはしなさい。心配するから」


もう子供でもないのに、しんのすけの頭を撫でながら微笑むのが癖になってしまっている。

寒いからだろうか。しんのすけの温もりが心地よく感じ、そしてまた眠りに誘われていくような気持ちになっていく。


「…夜勤の子の代わりにバイトに出たら来るのが遅くなったんだぞ」

「そうか。でもやっぱり理由が何であれ連絡はしなさい」

「心配性ですなぁ。ムサシ先生は、いつまでたっても。俺、子供じゃないぞ」


背を向けたしんのすけは、ペットボトルの蓋と格闘しつつ、それでも、ごめんなさいと呟いた。

そんな些細なことが愛しくてならない、この恋人にどれほど夢中になればいいのか。


「かしなさい」

「…ムサシ先生」


代わりに蓋を開けてやれば赤く染まった頬が振り向いて何だか此方まで幸せな気分になってくる。



end.
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