短編[BL]

□拍手文SS
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<しん+ひま>



聞いて下さい

ひまの、大事な人の、兄の話をします。

「しんのすけ」と呼びかければ、馬鹿みたいに明るい笑顔を咲かせて「ひまわり」って微笑んでくれるんです。

ナンパが趣味ですが意外と手を繋ぐことが下手なことも、緊張すると饒舌に喋る口調も大人しくなることも知っています。

「おじさん、この指輪と…それから、これも欲しいぞ」

「毎度。その子、お兄さんの彼女?よし、おまけして半額でいいよ」

「おお、太もも!」

「それを言うなら太っ腹でしょ、しんのすけ」

店員は兄とひまが兄妹には見えないようでした。そりゃ、そうだ。手を繋いで歩く兄妹が、この歳でいるとは考えにくい。

満面の笑みを湛えながら見下ろしてくる兄は無邪気で無防備な男だと思います。


「いいの?店員さん、ひま達のこと恋人だって勘違いしたままだよ」

「ひまが嫌だったら今から訂正してくるぞ?」

「…訂正しなくていい。せっかく半額になったんだもん」

「おお、ひまは母ちゃんに似てますなぁ」

「そんなことないもん。大体、しんのすけがちゃんと説明しないのが」

「うん、ごめんね。ひまの彼氏だって思われて少し嬉しかったんだぞ」

「…しんのすけ」

「でも、今度からは訂正するぞ。ひまに本当の彼氏がいたら悪いでしょ」

そんなことないだとか、彼氏なんて作らないだとか、言いたいことはいっぱいあったのに。口を開けば泣いてしまいそうだった。


「しんのすけが、ひまの彼氏でもいいのに」

「駄目だぞ」

「どうして?あの人だって、ひま達のこと恋人だって」

「…そう思われても、俺たちは兄妹だぞ。ひま」

「しんのすけ」

気がつけば緊迫した空気が、ひま達を包みこんでいて。しんのすけの両目は最愛の妹だと語っていました。

それが何だか嬉しくて、悲しくて、残酷で、繋いだ手は急激に冷たくなっていくのに離したくはなかったんです。

だって、馬鹿でお調子者で綺麗な女の人が大好きな兄ですが偽りのない現実を教えてくれるのは、この人だけだからです。


end.
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