短編[BL]
□拍手文SS
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<風間と野原>
僕は、!
「風間君、また失恋したの?おケツ弾力が足りないんだぞ」
「…それを言うなら決断力だろ!」
「こってり」
「それはうっかりだ。もう喋るなしんのすけ」
駅に近い広場の時計をみれば、もうすぐ夜の7時になろうかというところだろうか。気がつけば僕の家に辿り着いていた。
「あがれよ」
「おお、いいの?風間君のお母さんは?」
「今日は用事で遅くなる。出前でも頼むか。しんのすけは何がいい?」
ピザ、と即答するしんのすけに風間はもう慣れているのか、いつものように配達を頼んだ。
その間リビングでテレビを観ているしんのすけの近くに座り買ってきておいた炭酸水を口に含む
「…失恋の理由って少女向けのアニメが好きなことやマザコンなことがバレたの?」
「関係ないだろ」
「ンもォ、お互いのホクロの数まで知り尽くした関係でしょ?」
耳にふーっと吐息のような声を吹きこまれ、風間はビクッと首を竦めて振り返った。間近には悪戯に成功した悪ガキみたいな笑顔がある。
別々の高校に進学してからも、風間は失恋するたびに、こうしてしんのすけを呼び寄せた。
「…あのなぁ、いい加減にしろよ。それより、しんのすけこそ、彼女とどうなんだ?」
「仲良くしてるぞ。ちゃんと避妊もしてるから安心していいぞ風間君」
「お前に相談した僕が馬鹿だった。真面目に付き合えよ。失恋して慰めるのは僕なんだぞ」
「ほっほーい」
どんなに上からものを言っても、するりとかわされてしまう。けれど互いに正反対な性格だからこそ今も親友でいられるのだろうか。
玄関に響くチャイムの音を聞きながら風間はそんなことを一度だけ考えて財布を手にした。
「あれ?奢り?」
「今日だけはな」
「おお!太もも」
「…それを言うなら太っ腹だろ。机の上、綺麗にしてろよ」
「ほーい!あ、風間君。俺は風間君がもえP好きでもマザコンでも耳が弱くても大切だからね」
「…ああ、」
失恋した痛みなんて案外、少ないものだ。出前のピザを食べて、しんのすけと馬鹿な話をして、たまには好みの女の子の話もしたりして。
それが、明日も明後日も続けばいいのにと、風間は咳払いをするフリをしてずっと、今も願い続けているのだ。
親友依存症
end.