短編[BL]
□拍手文SS
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<よよ→しん>
ボクは所有物にしか愛されない。
「野原君、剣道はもうやらないのかい?あんなに真剣だったじゃないか」
「あのときは、よよよぎくんに勝つために頑張ってたから。でも、もういいんだぞ」
「…もし、あのとき。ボクが君に勝っていたら君は今もボクを追いかけてくれたのかな」
「代々木君?」
あの日。竹刀を持ちボクだけを見据える君に、もう一度、ボクは会いたかったのだ。
それが出来ないのであれば今も君だけを想う付属品に成り下がったような、この哀れな心臓を奪い去ってしまいたい。
なにもいらないから、どうか本能だけで君を愛してるボクを救ってほしかった。
「よよよぎ君、俺はもう剣道はしないぞ」
「よが一コ多いよ野原君。スゴイのに才能があるのに…どうして」
「ウチの母ちゃんの寝起きの顔のがスゴイよ。それに才能なんてないぞ。ごめんね」
「謝らないでいいよ。ボクは、どうしたらもう一度、君の視界に入れるのかな」
「…わからないぞ」
そんな悲しい顔をさせたいわけではないのに、どうして上手く言葉が出てこないのだろうか。剣道をしている君が何よりも好きなだけなのに。
剣道にも勉強にも友人にも愛されているけれど、それはボクが所有物にしか愛されていないからだ。だからボクは君には愛されない。
「好きだよ、野原君」
「…、剣道をする俺が?それとも、何も持っていない俺が?」
「どっちもだよ」
(それでも、)
ボクは、君に愛されたい。ただ、それだけなんだ。
end.