短編[BL]
□17歳の夜
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「人間は自分が幸福であることを知らないから不幸なんだ、ぞ」
「…しんちゃん、ドストエフスキー読むの?」
その名言、どこかで聞いたことがある。たしか有名な文学書。罪と罰の一説。
「中学生のころ…図書館で少しだけだぞ」
「中学生で?すごい」
「でも、ボーちゃんと違って俺は漫画版ね」
でも、すごく分厚くて読むのが大変だったのだ。そう、しんちゃんは笑って荷物を抱えなおした。
「ボクも、罪と罰は少しだけ読んだことがある」
そんなに何度も読み返した覚えは無いけれど。今になって何となくだけれど、あの台詞の意味が分った気がした。
「しんちゃんボクを選んだこと後悔してる?」
「ボーちゃん」
「……教えて」
しんちゃんは、瞳を閉じたまま首を横に振った。
後悔なんか、してないぞ。満面の笑顔。ボクの胸には矢が刺さる。
「だって、ボーちゃんを選ばなかったら、もっと後悔すると思うもん」
「しんちゃ、」
ずっと一緒、だからこれから先も一緒にいたい。
簡単だけれどそれが1番、難しいってボク達はよく知っていた。
「一緒にいたいって、ずっとそう思ってくれたらそれが一生でしょ?」
「…、そうだね」
「だから、ボーちゃん…ずっとそう思っててよ」
泣きたくなった。泣いてしまいたかった。夜の暗闇と一緒に。
しんちゃん、しんちゃんが好き。声にならないボクの告白。ボクの愛。
「…しんちゃん、行こう…電車がきたよ」
ベンチから立ち上がり、しんちゃんの右手を優しく包む。
星のように流れる窓の外の光を見つめたまま、ボクは微笑んだ。
「どこに行きたい?」
「どこでも行けるぞ」
しんちゃんは笑って、切符をボクにみせる。到着駅は知らない街。
「これって、ネネちゃんがよく言ってた駆け落ち?ボーちゃん」
「…怖い?」
ボクの問い、しんちゃんは微笑んだ。
「しわよせ」
「それを言うなら幸せだよ、しんちゃん」
17歳、最後の夜
ボク達は現実を走る電車の中で終わらない物語を探しに旅立った。
end.