短編[BL]
□アネモネの恋
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「お顔が暗いぞ」
「そうかな?それより此処の公式は解けた?」
「何書いてるかさっぱりわかんね、公式って何」
「公式って言うのはこの例題に…野原くん?」
分厚い教科書。そこに記された数字を指で撫でれば何かが集まる。
これは、野原くんの視線だ。野原くんがボクの指をじっと見ている。
「…代々木くんの手って大きくて綺麗だね」
「そ、うかな…野原くんの手の方が…女性のように綺麗だと思うけど」
ほら、ボクの手は剣道で豆が潰れているし。皮だって剥けている。
よく分るようにてのひらを教科書の上においた。
「カッコイイぞ」
「…野原くん?」
「代々木君って俺からみても男前だと思うもん」
君は優しいから
きっと、ボクが好きだと言っても笑って許してくれるのだろう。
君を思えば思うほど浅ましく。一歩進んで二歩下がる。堂々巡り。
「代々木く、」
「君が好きだ」
叶わない恋ならしたくない。けれど、胸が痛い。
ずっとこのまま、君を見ているだけ?じりじりと迫る下校の合図。
チャイムが鳴っても、ボク達はその場から動けないでいた。
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