短編[BL]
□アネモネの恋
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「代々木くん?」
「何でもないよ」
ありがとう、そう言って野原くんの手を放した。
これ以上、指先が絡めばボクの気持ちが伝わってしまうかもしれない。
それだけは嫌だ。叶わない恋ならしたくない。
「おお、そうだ。代々木くん放課後ヒマ?」
「放課後?そうだね、テスト期間中だから剣道部も休みだし特には」
靴箱から上履きを取り出し、ボクは野原くんの隣をゆっくり歩く。
長い廊下。けれど君と歩くときだけ感じるこの距離は恋に似ている。
「俺、今回のテストで赤点だったら母ちゃんに叱られるんだぞ」
「…だったら、ボクでよければ勉強を教えるよ」
「代々木くんならそう言ってくれると思った」
じゃぁ、また放課後ね!そう言って君は満面の笑顔で去って行く。
寂しいなら追いかければいい。悲しいなら言葉にすればいい。
けれど、叶わない恋ならしたくない。君にだけは嫌われたくないのだ。
「代々木くん!」
「……っ、た!」
「おお!よけれると思ったのに、ゴメンね」
パコンと命中した教科書でボクの頭を叩いた君は逆行を浴びていた。
ああそうか放課後だ。勉強を教える約束だった。
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