短編3[BL]
□花言葉は実らぬ恋
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「父ちゃんと母ちゃんは?」
「もう寝てる」
「ひまは寝ないの?」
「…オニーちゃんこそ随分と夜更かしなのね」
「辛辣ですなぁ」
妹の隣に寄り添うように座ると冷たい指先が少し触れる。
肌寒いからか、それとも緊張からか。俺は後者だ。妹が相手だと、いや…ひまわりだからこそいつも落ち着かない。
お前にとって俺は居心地のいい存在なんだろうけど。そう努めてきたつもりなんだけど。
「彼氏とは仲直りしたの?」
「そんなこと今は関係ないでしょ」
「ひまわりは秘密が多いですなぁ」
「しんのすけこそ誰と一緒だったの?」
「いやん、そんなこと言えないぞ」
「…オニーちゃんの方が隠し事、多いじゃない」
両方の手で顔を隠した妹が一瞬だが泣いているかと思った。もしかしたら自分の願望がそう見せていたのかもしれない。
ひまわりの頭を手のひらで引き寄せながら抱きしめるようにしてふわふわの髪を撫でた。
「ひま、オニーちゃんのこと好き」
「…知ってるぞ」
「しんのすけの傍が一番、好き」
「分かってるぞ」
「信じてよ」
「信じてるぞ」
「じゃあ、どうして笑ってるの」
「…ひまの好きは可愛いなぁ、と思って」
お前のそれは紛れもなく兄を慕ってくれる感情だ。
俺みたいに汚れてはいない。だんだん染みみたいに広がっていく、この欲望とは別物だ。
最初から求めている形が違っただけなのに、どうして他では代用できないんだろう。
愛しいのに、苦しい。羊水に浸かるほどの優しさも甘さも此処にはないのに、どうしてこの感情を捨てることができないんだろうか。
実らないものをずっと育てていくのか。これからも。だったらもう救いようがない馬鹿だな、オラは。
「チューリップ…、もう枯れちゃった」
「………そっか」
妹を腕の中に閉じ込めながら今日もまた捨てられなかった感情が少しずつ成長していくのを感じた。
永遠に続いて永遠に苦しむ。それを恋だ愛だと呼ぶなら、多分そうなんだろう。
大切にし過ぎてきっと最後は枯らしてしまうかもしれないけれど。
「来年また植えよう、ひまわり」
end.