短編3[BL]

□思春期
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しんのすけ+ひまわり/生理



「しんのすけとは、どうしたらひとつになれるの」

朝。おはようと同じタイミングで何かの拍子にそう顔を歪める妹に、焼けたトーストのいい匂いがふんわりと鼻を掠めた。

「怖い夢でもみたんでしょ」とか「ひまもパン焼く?」とか続いた言葉は、ひまの真っ直ぐと俺だけを映し続ける凛とした瞳に掻き消されてしまった。

「おなかいたい」

「どうしたの、そう言えば顔色も悪いし」

「…痛いの」

「ひま?」

と震える妹を抱きしめると、びくりと反応を示すその様子に酷く狼狽えたのを覚えている。まるで女の子だ。いや、ひまは女の子だけど、そうではなくて。

どんな言葉なら似合うのだろうかと空っぽの頭に訴える。そうすると沈黙が訪れた。

耳を掠めるようなリビングから聞こえてくるテレビの音さえ、いつもより大きく聞こえる。


「ひま、女の子になりたくない…こんな身体、いらない。いらないもん」

「そんなこと言ったら駄目だぞ。ホントにどしたの」

支えていた身体がゆるりと俺の腕のなかに倒れ込む。嫌な予感がしてひまの足元をみれば、血がぽたりと落ちていた。

いつかは訪れるだろうと思っていたけれど、そのいつかは今日の為だったのか。

(もう俺も妹離れをしなければいけない時期になってしまったんだなぁ)

いや、ひまわりが女の子から大人になったら、ずっとこうしなければと考えていた。その為か実際この展開に対しての動揺はない。

少なくとも冷え切った食パンを見つめながら、ひまの頭を優しく支えるくらいの余裕はあった。

「こんな身体になっても、しんのすけとは幸せになれないもん」

「…ひま、これは赤ちゃんを産む為に必要な、大切なことなんだぞ」

「生理なんていらない。しんのすけとひとつになれないのに…こんな痛いおもい、したくない」

女の子だけが経験する特別な痛みも幸せな喜びも俺はこの先、ひまに与えてはやれないだろう。

なにもあげられないのに、俺はひまのお兄ちゃんでいることを止められない。

誰かに譲ることも任せることもできないように妹って存在を切り離せもしない。多分それは一生。


「愛してるぞ、ひま」

「だったら」

「でも、ひとつにはなれないし。これ以上、愛してあげることもできないぞ」

「っやだ」

「やだ、じゃないでしょ。今までが普通じゃなかったんだぞ」

世界中でいちばん素敵な俺のお姫様。いつかは誰かと結婚して子供を作って母ちゃんみたいになるんだろう。

そのときは一緒に喜んでやればいい。兄として変わるなら、そうなりたい。


「俺は家族を選ぶよ」

「しんのすけ」

「…お兄ちゃん、でしょ。そろそろ普通の兄妹に戻ろうか、ひまわり」


一生、大切にしてしまうから傍には置けないこともある。

だから、ねぇ。ひまわり、こんな形でしかお前の幸せを願ってやれないし、こんな遠まわしでしか大切にできないけれど。

俺は今日も、明日も、明後日も、野原ひまわりを愛し続けているよ。


end.

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