短編3[BL]

□秘密
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「桜田が無意識にお前と高橋のことを比べるんだよ」

「…ネネちゃんが?」

「お前、桜田と付き合う気がないなら…あんま優しくすんなよ。つーか離れろ。友達って距離じゃないんだよ、お前ら」

そう言いながら不安そうな顔をする河村君は、きっと友達想いのいい奴なのだろう。

風間君やボーちゃん、マサオ君にも以前すこしだけ同じような事を言われた。俺とネネちゃんは友達の距離じゃないって。

時々、自分の中で芽生える欲と好意も多分そうなんだろう。幼馴染の女の子に対して想う感情ではなかったかもしれない。


「ネネちゃんの理想はきっとしんちゃんだよ。だからこそ周りとしんちゃんを比較して、いつも戸惑っているんだよ」

と、マサオ君は辛辣な口調を緩めて俺に言ったことがある。そのときは言葉の半分も理解していなかったけれど今なら少し分かるぞ。


「河村君ってどんな女の子が好きなの」

「あ?なんだよ、いきなり」

「俺は我が儘で独占欲が強くて、強情で。でも涙脆くて嘘が苦手な女の子が好きだぞ」

「…それって」

言い淀む河村に、しんのすけはふっと落ちた沈黙に笑った。既に部活動も終わり校舎の中には殆ど人が残っていない。

頭の中では、ああもう帰ろうか、とそんなことを考えるくらいの余裕はあった。それくらい静かな沈黙を、ゆっくりと剥がしていく。


「恋をして失うことが怖いんだぞ」

「…失うとは限らないだろ」

「失わないとも言い切れないでしょ」

「そうかもしれねぇけど」

肯定も否定もしないで考える、その優しい同級生に形作ろうとした笑みが口の端で僅かに震える。

河村君に俺の本心を打ち明けた処で、きっと理解などされないだろうに言葉が上手く飲み込めないでいた。


「オラは、そんな断定できない感情でネネちゃんを受け入れることはしない」

「…お前らしくないぜ。しんのすけ」

「ネネちゃんのことになると駄目になるんだぞ」

椅子から立ち上がり、ポケットに両手を突っ込んだまま窓の外に目線を移す。

少し眩しい夕日を影にして横目で捕らえた河村君の表情は、どこか納得のいかない顔になっていた。多分そうなのだろうけど。

もしも、例えばこの恋を誰かに邪魔されるくらいなら大切なまま終わらせたい。綺麗なまま閉じ込めて、ああ好きだって実感したい。

だから、一生の秘密ってのはこれくらいがちょうどいいと俺は思うんだぞ。

end.
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