ちびまる子/他短編
□関口+まる子
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「消せ」
「嫌だよ」
「さくら」
「なにさ」
「…昔、俺がお前に怪我させたことあっただろ」
「昔の話だよ。あたしゃ、もう忘れたよ」
さくらは鉛筆を握っていた指先を止めると、やっと俺に視線を合わせて安堵を覚えるような愛しさで俺を見つめる。
小学生の頃。些細なことで喧嘩になった俺とさくらは勢い余って壁に頭をぶつけて流血してしまったことがあり、さくらは傷が残らなかったからいいんだよと突き飛ばした俺を許してくれた。
(…きっと相手が、はまじでも他の奴らでも、さくらは許してた思うけど)
「もっと、あのとき俺を責めるかと思ったぜ」
「傷が残ったら関口君に責任とってもらうつもりだったんだよ、あたしゃ」
「いいぞ。最初からそのつもりだったし」
「いやだね、あんた。冗談だよ…傷が残ったとしても責任なんていらないよ」
わりと真剣な顔をして、さくらは日誌を閉じて言った。多分、相手が俺じゃなくても同じことを口にしたんだろう。
「あんたのこと怖いって言ってる子もいるけど、そんなことないのに。勿体無いよ」
「…さくらが知ってるなら、それでいい」
「欲がないねぇ、この人は。でも関口君はそのままでいてよ」
本人には自覚がないんだろうけど、さくらのそんな不器用で優しいとこが俺、たぶん好きなんだよな。
end.