flat[BL]

□恋は傷つく者
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「普通だな」

「普通だったねぇ」

「俺は好きだったけどなぁ、なんかこうどうにもならない感じが!」

あー、そーねーとか平介はもうどうでもいい感じにリモコンを探している。

妹に借りた恋愛映画は甘酸っぱい片想いを題材に描かれていて今これが女の子の間でブームになっているらしい。

不幸な主人公に同情したらいいのか、よくわかんないけど、それを平介の家で三人で観ることになったのは数時間前のことだ。

予想はしていたけど鈴木は途中から完全に飽きていたし、平介は…どうかな。たまに「重いねぇ」とか呟いていた気がする。


「オレ、お前のこと好きになれば良かったって、あの男の台詞さ。残酷だよね」

「あー。あれな。好きになる気がねぇのに期待だけ持たせてな。あいつは一体何様だよ」

「過激ねぇ。鈴木も佐藤もそんなこと考えてたんだ」

「あの女も自分ばっかりが苦しいみたいな顔しやがって」

「はは!鈴木ってば全部、否定したら可哀想だよ」

「つーか、平介。おまえは何かねぇのか」

「えー」

「そーいや、平介が恋愛映画って似合わないよね」

人当たりのいい笑顔でスナック菓子と平介お手製の大福を交互に見比べるオレに平介は何かを詮索するような視線を一瞬だけ交わすと「そーねー」と言った。

鈴木は両手の拳を握り締めて「はー」とか「うぜぇ」なんて自分に言っているのか誰に言っているのか終焉された画面を睨んでいる。


「…好きだからさ、ずっと一緒ってのは、難しいよねぇ」

「平介?」

「やー、べつに片想いでもさ。それはそれで…自覚できただけマシだと」

「おい…お前、熱でもあるんじゃねぇのか?」

「やぁ、そういうわけじゃ…ただオレの場合はさ、ホラ…自覚しないまま自分の恋が終わってそうだなぁと」

「んー…自覚ないまま終わる恋と自覚して終わる恋って、どっちが残酷かな。難しいよね」


わからない感情には蓋をしたい。一生わからないままなら、それでいい。それが一生なら死ぬまで、そうあってほしい。

(…どっちが正解でもいいや。だって俺も鈴木も手遅れだ。今さら勘違いでした、で引き返せるほど甘くはない)

「でも俺は好きになって良かったなぁ、て思うよ。へーすけ」

「佐藤?」

「だァら、平介。お前は一生、そのままでいろ。残酷だとか関係ねぇだろ、気にするな」

「いーのかねぇ」

「いいのいいの。平介はさ、オレ達の傍にいてよ。今はそれで十分だからさ。そうしてよ」


「貴方が幸せなら私も幸せよ」なんてあの主人公のような慈愛に満ちた台詞は鈴木も俺も言えないし、平介に彼女ができたらどうにかなりそうだけどさ。

へーすけが与えてくれる痛みならオレはいいよ。たぶん鈴木も俺と同じ気持ちだと思うよ。

end.

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