短編2[BL]

□I want you
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席を立とうとした僕に、しんのすけは笑うのを止め「ごめんね」と言った。こうも素直に謝られると腰を下ろすしかない。

「風間君って自分が思ってるよりも、しんちゃんのこと甘やかしてるわよ」と以前ネネちゃんに言われたことがあるけれど事実そうのなのかもしれない。

(…いや、そうなんだろう。どうしてこんな奴を好きになったんだろうか。溢れてくるのは何時だって後悔だ)


「風間君の紅茶、一口ちょうだい」

「…いいけど。一口だけだぞ。しんのすけ」

「これ、飲むと俺と風間くんの間接キスだね」

「気持ち悪いこと言うなよな、お前」

ここが人気のない席で良かった。でなければ他人から見た僕達は一体どういう風に見られているのだろう。

幼いころからの友人だからと言って目の当たりにした人は素直に仲の良い幼馴染だと思ってくれるのだろうか。

(いや、僕もしんのすけも正真正銘、男なんだ。どれだけ仲が良くても、それ以上の関係に見えることなんてないのかもしれない)


「しんのすけ」

「ほいほい?」

「お前は、僕の一生傍にいたいと言ったけど、結局はどうしたいんだ」

「…どうもしないぞ。今までみたいに、こうしてたまにふたりで会えれば」

「それで満足するのか?随分、らしくないことを言うんだな」

「俺らしいって何?風間君には分かんないぞ、俺の気持ちなんて」

一口大にカットしたケーキを口にした、しんのすけがケーキの甘さに感動する暇もなく僕を見つめる。

見開いた眼球は少しだけ水分を帯びて、今にも落ちてきそうだ。


「僕はこんな関係が…これからも永遠と続くのは嫌だ。不毛だ、しんのすけ。僕には無理だ」

「風間君、俺だってそんなの嫌だぞ?」

「だったら…!」

「でも、これ以上は風間君を傷つけることになるかもしれないんだぞ。恋ってそういうものでしょ。いつまでも優しいばかりじゃないぞ」

「それが何だ。お前にだったら傷つけられても平気だ…いや平気じゃないな。お前だって傷つくかもしれないんだから」

「…風間くん」


困っているのか嬉しいのか、しんのすけの表情の変化に僕の胸は途切れた機械の様に痛んだ。

これは確かに恋なのに。どうして僕もお前も感情だけは重なり合うことがないのだろうか。

「しんのすけ、そのケーキ僕にも一口くれよ」

「おお、いいぞ。間接キスだね、風間君」

「…そうだな」

そうして今も、まだ恋をしている途中で僕達は踏み止まっている。

end.
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