短編2[BL]

□指切り
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しんあい/おまけ有



教室の窓の下には花壇に咲いている花が鮮やかに花びらを広げ咲いているのが見えた。

指を通しても、一度だって絡まることがない美しい彼女の髪の毛に似て、それはとても、綺麗に輝いている。


「しん様、あいとデートして下さい」

いつものように開口一番に飛び出してきた唐突な言葉に、しんのすけは眉をひそめた。

そもそも放課後の教室に他校の生徒がこうも堂々と学校に居座ることができるのは権力の力なのだろうか。

(…黒磯さんが手配しているんだろうけど、ストレスで胃に穴があかないか、心配だぞ)


「しん様、今度の日曜日はおひまかしら?」

「暇じゃない。だらだらと過ごす予定だから」

「では、しん様。いつかお暇になったらあいとデートして下さいな」

「いつかでいいの?永遠に俺がだらだら過ごすかもしれないのに?」

「…それでも、あいは…しん様を束縛しないと決めましたのよ」


微笑むような夏の、やわらかな風が美しい黒髪を揺らし、ほそめた瞼の上に眩しい光がとても綺麗に落ちていく。

幼稚園の頃、マサオ君に続き風間君やボーちゃんまでも虜にしたあいちゃんの笑顔に感情が全く反応しないわけではない。

そもそも、あいちゃんのことを表現するならば才色兼備であり、まるで絵に描いたようなお姫様だとおもう。

(そんなお嬢様が一体どうして、こんな俺に執着するんだろうか。これだけ冷たくしているのに…いっそ諦めてくれたほうが俺も気楽なんだぞ)


「野原、お前もっと優しくしてやれよ」

「そうそう俺だったらデートでも何でもしてやるのに!酢乙女さん泣いちゃうだろ、野原」


気付けば、あいちゃんと俺の周りには友人達で群がっていた。

こうして集まってくる男は数知れず存在するけれど強い光を宿したあいちゃんの視線は今も俺にだけ注がれている。

随分前に「あいちゃんの好きは、しんちゃんが想像するよりもきっと重いよ」とマサオ君に言われたことがあったけど。

そもそも、あいちゃんの好きって本物なの?だって5歳の頃からだぞ?きっと、今の俺を知ったら幻滅するだけなのに。


「皆、あいちゃんとデートしたいみたいだぞ」

「…そうですわね」

「誰かと遊んでみる?あいちゃんの学校と違って庶民しかいないけど」

「しん様がそれを望むならあいは構いませんわ」


これだけ心にもない酷い言葉を並べても、あいちゃんが激怒することは一度もなかった。

ただ少しだけ悲しそうに、けれど、どんな笑い方をしていても…あいちゃんはいつだって綺麗に微笑むばかり。

毎日、飽きもせず好きだと言われたら心が全く動かないわけじゃない。

(けれど、あいちゃんの知っている5歳の頃の俺と、今では何もかもが違いすぎるんだぞ)

ねぇ、あいちゃん。君は恋に恋をしているだけなんだ。きっといつか俺を好きだってことを後悔するときがくる。

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