短編2[BL]
□勿忘草の途中
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しんあい
5月、まだ寒いのか温かいのか分からない季節。
あいちゃんは事故にあった。俺のことは忘れてしまったらしい。
勿忘草の途中
「あなたは誰?」
「…しんのすけ」
俺の名前は野原しんのすけ。もう一度、繰り返す。広い病室の一室。
あいちゃんは、俺の記憶だけ何もかも全て失ってしまったらしい。
「素敵な名前」
「…、まぁね」
「しんちゃんは…あいのお友達?貴方のことだけ思い出せないの」
少し困ったように俺を見つめるあいちゃんに俺は優しく微笑んだ。
あいちゃんに、しんちゃんと呼ばれるのは何だかなれないものだ。
「そうだわ。あいは、いつも貴方のことをなんて呼んでいたの?」
「…しん様」
「しん様?」
「…嘘だぞ」
信じられない、って顔をするあいちゃんに俺はゴメンネと呟いた。
いつも俺を好きだと言っていた彼女はもういない。これは現実だ。
「しんちゃん大丈夫?まだ…しんちゃんの記憶だけ戻らないのね」
「ネネちゃん」
病室の扉を閉め、廊下で待っていてくれた皆に目線だけを走らせた。
マサオくんはお見舞いの花束を黒磯さんに渡して困った顔をした。
「しんのすけ…お前…あんまり気にするなよな」
「風間くん」
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