短編2[BL]
□砂糖は幾つ?
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黒磯+野原君
夕暮れの午後6時
お嬢様のバイオリン教室が終わるまで、いつものように黒磯は喫茶店の1番端っこ。そこに陣取るようにコーヒーに口をつけた。
飲めば慣れると思いつつも、いつまでたっても苦いままのコーヒーはちょうどいい温度と香りを黒磯に与える。
それでも、気休め程度には心を落ち着けられる居場所だったのだ。
「もう少しか」
チラッと時計に視線を移し、残ったカップの中身を溜息と一緒に傾ける。
今日も、もう一日が終わる。なんて年甲斐もなく惚けていると向こうから見慣れた顔が此方に手を振ってくるのが分かった。
「しんのすけ様」
「おお黒磯さん」
奇遇ですなぁ、と彼は学校帰りなのか制服姿のままで目の前に立つと、いつもと変わらない笑顔を零した。
「俺、ここで待ち合わせなんだぞ。黒磯さんは1人?あいちゃんは?」
「私はお嬢様のバイオリンの稽古が終わるのを待っているところです」
「へぇ、」
それはそれはいつも大変ですなぁ、と呟きながら、しんのすけは黒磯の真正面に座る。席は何処でも空いているのに、何故わざわざ目の前に座るのか。
黒磯は半ば驚きと疑いで、しんのすけの顔をじっと見つめたままコーヒーに手を伸ばした。
「友達が来るまで一緒にいてもいいでしょ」
「…別に私は構いませんが…お友達と言うのは…女性ですか?」
「うん、女の子だぞ」
「…本当にお友達なんですか?それは貴方が思っているだけで」
「何で疑うの?」
震えたコーヒーカップ。しんのすけの言葉に黒磯は自分の感情も分からずに厭な言葉を噛み砕く。
「それは、」と言いかけた黒磯に、しんのすけは近くにいた店員に声をかけ苺タルトのケーキを頼んだ。
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