短編3[BL]

□理想
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しんネネ



「しんちゃん、栗田先輩と別れたんでしょ?」

「おお、もう知ってるの」

「女子の間では噂になってるわよ」

「ほうほう。ネネちゃんでもそんなこと気にするんだね」

「…ネネは心配してるのよ」

と、黒板を消す手を止めてそんな小さな声が耳に届いた。

顔を横に向けて視線を合わせようとすると逃げられる。

「ネネちゃん俺のこと嫌いなんでしょ」

「そんなことないわよ。どうして」

「今、目をそらしたぞ」

「…それだけで嫌われてると思ったの?」

「違った?」

「違うわよ」

怒りを通り越してどこか悲しい表情をしたネネちゃんに、なるべく言葉を選んで話そうとした。

だけど何も声にならず無言が落ちる。

黒板の前で2人して肩を並べて黙っていると友達だと思っていても少し意識してしまうものだ。

昔はこんなことなかったのになぁ。一緒にいる時間が極端に減って緊張しているだけかもしれないけど。


「おお、予鈴」

「次の授業はじまったわね」

「ネネちゃんサボりはいけないんだぞ」

「しんちゃんもでしょ。どうするの?」

「移動教室でしょ?今から行っても怒られるだけだぞ」

「…そうね」

ネネちゃんは軽い溜息をついて、窓の外に目線を移す。

その間に俺は、まだ消し忘れのある高い場所を黒板消しで落していく。

「ねぇ、しんちゃん」

「ほいほい」

「どうして年上の人じゃないと駄目なの」

「…そんなこと考えたこともないぞ」


手についた白い粉を手で叩きながら癖のある茶色の髪が、ネネちゃんの動きに合わせてふわりと揺れるのを、じっと眺めた。

少し色素の薄い瞳と、その上を飾る長い睫毛にピンク色の唇は、つい欲情に任せて奪いたくなる。

ネネちゃんが年上だったら、そうしていたかもしれないし。今みたいにやっぱり躊躇したかもしれない。


「しんちゃんが年上の人が好きなのって…ななこさんが原因?」

「どして?」

「だって、しんちゃんが付き合う人みんな、ななこさんに似てるわよ」

そう言われたらそうかもしれない。自分の中で年上のおねぇさんは絶対、条件だったけど。

清楚で可憐な、あの子も。強気で美人系な先輩もどこかななこおねぇさんに似ていたかもしれない。

そう簡単に長年、蓄積されてきた女性の好みは変えられない。

つまり、まだずっとあの人に片想いをしていることになるんだろうか。

だから今も長続きする恋ができないのかもしれない。


「ネネも髪のばそうかな」

「…ネネちゃんはそのままの方が似合ってるぞ」

「もうちょっとダイエットしょうかな」

「十分、痩せてるでしょ」

「じゃあ…もっと優しくなる」

「今も優しいぞ。俺のこと心配してくれるの、ネネちゃんだけだもん」

「ずるいわ、しんちゃん。そんなこと言われたら何も言えない」

「うん、ごめんね。でもネネちゃんは変わらずそのままでいてよ」

目元を覆っていた手のひらをどけながら何も言わなくなったネネちゃんは小さく息を吸い込みながら今度は俺の言葉に応えるように微笑んだ。

(…ネネちゃんは本当に優しいなぁ)


ねぇ、どうか。ネネちゃんだけは俺の理想にならないでね。


end.

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