ちびまる子/他短編

□瀬々+皆見
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ボクラノキセキ
瀬々稜+皆見晴澄




今思えば、皆見のノートに触れたのは俺が最初だったのにな。


「たりーなぁ。クラスでわいわいすんの」

「俺も。でも好き」

「うへー」

皆見は無防備な顔をして内心、警戒心ありまくりの表情をやんわりと崩した。

へらり、と言った効果音が背後についてきそうな緊張感のない笑みは自分の懐に相手を招き入れるのが上手いのだと思う。

「あー…隣ってさ座っても平気?」

「うん。なに?瀬々らしくないけど何かあったか」

「いや、だってさ高尾っちが皆見の隣に座るかもしれないし。女の嫉妬はこえーじゃん」

「ふっ。春湖はそんな性格じゃないよ」

そりゃ、そうだ。

つーか俺も野郎相手に何、遠慮してんだろーな。こればっかりは気持ちの問題なんだろうけどさ。

クラス対抗のバスケで盛り上がるクラスメイト達を遠くから応援しつつ、改めて皆見の隣に腰を下ろした。


「俺は大人数とか苦手でさあ」

「あー…そういや昔も言ってたな」

「そーそー」

皆見は律義に俺の言葉を覚えている。いや、俺のと限定するのは間違いか。皆見は俺じゃなくてもきっと誰の言葉も聞き逃さない。

ずっと覚えている皆見と、ずっと忘れたつもりでいる俺…って違うな。余計なことを考えると、また意識が遠のきそうになる。


「瀬々」

「あー…なに」

「俺、ずっとお前は敵なんだと思ってた」

「ええ?もしかして俺、疑われてた?」

「気ィ、悪くしたかも知んないけど謝んないよ」

「いいよ。裏切られたトラウマがデカいからなーベロニカちゃんは」

それでも謝罪の言葉がないと言うことは俺が黒か白か、まだ迷っている証拠なんだろう。

皆見らしいと言えばいいのか、どうなのか。

普通そんなこと思っていても本人に言わないのが常識じゃないの?って俺が常識を語るのも変だけどさぁ。

俺は大勢でワイワイするのは苦手だけど、こうして皆見とふたりの空間ってのはもっと得意ではないかもしれない。

自分らしくいられなくなるから、とか。知られたくない前世の人格とか。そんな全てを暴かれそうで、たまらなく不安になった。

(…そのくせ、こうして皆見の隣に自ら進んで座ってる俺って矛盾してるよなぁ)


「ベロニカちゃんって呼ぶの瀬々くらいだ」

「まァ、俺まだ自分が誰だったか思い出してないからさァ」

「いや瀬々は、もし思い出してもそーゆーとこそのまんまでいてほしいな」


そう言った皆見は多分、今にも何かに押し潰されそうな顔をして試合に視線を戻してしまった。

さっきまで俺の横顔、見てたくせになー、もう意識は別のとこってことか。

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