短編3[BL]

□カモミール
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しん+ひま



温めたカモミールティーを少し冷ましたそれを、ひまわりはゆっくりと口に含ませた。

後味のいい酸味と甘さが、するりと喉を通り過ぎていき、やがて内側からじんわりと熱をもつ。

「どう?飲めるか、ひまわり」

「…ん」

こくりと頷くと兄は表情を和らげながら、ひまの前髪を優しくかき上げた。

(あ、冷たくて気持ちいい)

瞼を閉じて兄のするがままに身を委ねていると頬に頬を寄せながら兄が耳元で小さく安堵するような息を吐く。

「熱はちょっと下がったみたいだぞ。薬あとで用意するから」

「…うん」

また、こくりと黙って頷くとベッドの端に腰掛けた兄がひまの頭を優しく撫でる。

この人は本当に私を甘やかすのが上手だ。ひまが喜ぶことを全て知っている。

ギュッと兄の手のひらを握り込むと同じように包み込まれた。


「しんのすけ寝てないの?」

「お前が気にすることじゃない」

「ひまの熱が下がらなくて心配した?」

「…どうかな」

笑みを含ませた兄の声。けれど本当に心配していてくれたことは浮かべた表情からでも、はっきりと分かる。

実際ひまわりの看病を兄は嫌な顔一つせず甲斐甲斐しく世話を焼いてくれていた。

多分、昨日の夜もずっと傍にいてくれたんだと思う。

「このカモミール美味しい」

「ノドや鼻の炎症に効果があるって、あいちゃんが教えてくれたんだぞ」

「ひまの為に作ってくれたの?」

「これくらいは、お兄ちゃんとして当然でしょ」

そう言って肩を掴まれ引き寄せられる。

硬い胸元の感触とその腕の中は、誰よりも温かい。

息を深く吸い込めば柑橘系の兄の匂いがして、それが自分とよく似ていることに気がついた。


「しんのすけの妹で幸せだよ」

「おお、気づくのが遅いぞ。ひま」

からかうような、けれど甘やかすような声が柔らかにひまわりを包み込む。

背中に回ったもう片方の手のひらが慈しむようにポンポンと叩いた。

「しんのすけも、ひまが妹で幸せでしょ」

「我儘なお姫様ですけどねぇ」

「甘えるのは、しんのすけだけよ」

「…知ってるぞ」

兄は腕を伸ばして熱で赤く染まった頬を撫でる。慎重に、ゆっくりと優しく。

その仕草だけで、いたわりと愛情が心臓を突き破って伝わってくるような気がした。


「…ありがとう」

「ひまが素直だとちょっと不気味だぞ」

「そんなことないもん」

「ほいほい」

兄は普段よりも口調を緩めてベッドから立ち上がると見上げていた、ひまの髪をクシャりと撫でて破顔する。


「それ飲んだら良い子で寝てな」

「子供扱いしないでよ」

「ほいほい、お姫様」


そう言って笑った兄の横顔を眺めながらすっかりぬるくなったカモミールティーの最後の一口を飲み込んだ。

(…ああ、やっぱり)


ひまは死ぬまで兄の妹で在り続けよう。

end.
 

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