短編2[BL]

□ブラックジルコニア
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しんひま+友人



「ねぇ、ひまわり。あんたのソレって男物じゃない?」

「それ?」

「その、ピアスよ」

と数少ない友人に指された場所は、ひまの右耳に止まった。王冠の中に、きらりと光るブラックジルコニア。

いぶかしげな友人の視線を、ひまわりは小さく笑って歩いている速度を緩めると制服についているリボンをクルクルと指で弄ぶ。


「ひまわりの趣味じゃないでしょ。そのピアス」

「似合わない?」

「そうじゃないけど…もしかして噂の彼氏から貰ったの?」

「…噂って」

「みんな言ってるわよ。ひまわりには彼氏がいるんじゃないかって」

「おお!いやぁ、照れますなぁ」

兄譲りの、ゆったりとした口調に友人はまだ何か言い足りないのか、ひまの隣に並ぶとその視線をまた右耳のピアスに向けた。

きらりと光るブラックジルコニア。確かにこれは、しんのすけから貰ったもので、しんのすけの左耳には同じものが光っているけれど。


「彼氏じゃないから。でも簡単には外せないの」

「…それってつまり好きな人から貰ったってこと?」

「そうだよ」

雲の隙間から漏れる光が、ひまの瞼に被さってしまうように友人の言葉に頷きながら鮮やかに染まるオレンジ色の空を見上げた。

しんのすけは、ひまの彼氏ではないけど。でもそれ以上に多分、壊せない大切な家族。だからこそ離れることもずっと傍にいることもできない、ひまの好きな人。


「その人も、ひまわりと同じのをしているの?」

「…してる。あの人は左耳。ひまは右耳。ひまの誕生日に一緒に穴をあけたの」

「痛かった?」

「少しだけ」

市販のピアッサーがバチンッと、まるでプラスチックが割れる音が鼓膜に響いて、そのあと痛みがじわりとやってきたのを覚えている。

空洞ができた場所からは、しんのすけと同じ血が少しだけ滲んで、言葉にできない罪悪感に泣いてしまいそうだった。

しんのすけの耳朶にひまと同じ傷が残って、そこを埋めるブラックジルコニアはきっと永遠に離れることはない。けれど、それ以上に傍にいることもない。


「その人のこと、私には紹介できないの?」

「できない」

「…でも、ひまわりは、その人が好きなんだよね」

「好き」

「だったら頑張れ。ひまわり」

その優しい声に顔を上げると柔らかな笑みを浮かべて友人はひまを見ていた。

その好きな相手を、このピアスの本当の意味を知ったら、きっと軽蔑されるのに。やましさに視線をまた地面へ落とす。

傍にいても離れていても、大切な友人に嘘を重ねてしまっても、ひまはこの恋を止められないでいる。

end.

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