短編2[BL]
□I want you
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しん風しん
突然?必然?お前は「風間君とは一生、傍にいたいぞ」と言った。
淹れたての紅茶が火傷しそうなくらいの湯気を放っているのに、お前は驚く僕の顔を見て楽しんでいるんだろう。
店内に流れるモダンジャズ。数秒して「馬鹿か」と罵倒の次に「冗談か」と訊けばお前は薄く笑い大きく広げた両の手を僕に向かって差し出してきた。
頓珍漢なことを豪語する(お前は知らないだろうけど)僕の心臓はそんな言葉ひとつで緊張する(いつもお前のことばかりで僕の理性は忙しい)のに。
「僕が好きなのか?」
「お馬鹿だなぁ。訊かなくても分かることだぞ」
「悪かったな。お前の場合、聞かないと分からないんだよ」
「んもォ。そのままの意味でしょ、風間君ってば」
真面目に答える気があるのか、ないのか。カランカラン、と店内に響く来店の音は、しんのすけの言葉に申し合わせたように重なり合った。
(どうせ、お前は僕を好きだと言ったその口で女性を口説くのだろうな。お前はそういう男だ)
小さな看板が目印の、この喫茶店だってこいつにとってはきっと別の女性と来るための下見にしか過ぎないんだろう。
「何、頼む?」
「…僕はいい」
「そう?じゃあ、俺は苺のケーキでも食べようかな。ここのケーキ甘くて美味しいぞ風間君」
「おい、まだ食べるのか?お前、太っても知らないからな」
「今日のおつやがまだなんだぞ」
「おつやじゃなくて、おやつだろ。いい加減、覚えろよ」
向かい合わせに座るしんのすけがメニューから顔をあげ「そうとも言う〜」と、何だかお決まりの流れになっている。
先ほどの言葉と今の行動の意図を図りかね、カップに口をつける僕に、しんのすけはゆっくりと表情を緩めていった。
「やっぱり、俺。風間君とは離れたくないぞ」
「…僕もだ」
「なにが?」
「僕もしんのすけの傍にいたいって言ったんだよ」
「…風間君」
「勘違いするなよ?お前が人様に迷惑かけないように見張ってる為だからな」
「ほうほう」
「信じてないだろ。お前のそーゆー態度が嫌なんだよ。僕は」
「ゴメンくさ〜い、ガスくさ〜い、カーザマ君は乳くさーい」
真面目なことが苦手な、しんのすけに何を言っても無駄なのは理解している。
けれど、こんなときまでこいつはどうして、こうも僕を怒らせるんだろうか。
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