ブラッディクロス

□二章
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 雨が降っていた。とめどなく降り続けるそれは全てを洗い流すように体を叩く。
 いつもと同じ風景。いつもと同じ雨。いつもと同じ夢。
 いつからだろうか。この夢を見始めるようになったのは。
 赤い夢を見ながら、ふとそんなことを考える。視線の先にはいつもと同じく仰向けになって倒れている少女。そしてこの世界の中心に居据わる真っ赤な十字架も、いつもと同じく少女の体を貫いていた。
 その光景から意識を逸らすように思考を続ける。確か、天ヶ崎高校に転校してくるちょっと前から。あの頃から僕は毎日この夢を繰り返し見ている。
 始めはただの夢だと思った。でも何度となく見るうちに戸惑った。
 どうして、と口から言葉が漏れた。僕の心とリンクするように。
 あまりにも幻想的で、あまりにも生々しい赤い夢。
 これは一体なんなのか。これはなんの夢なのか。これは本当に夢なのか。これは、僕が勝手に作り出した夢? それとも誰かの夢? これは記憶の回想なの?
 知らない。わからない。周りは日本にはないようなレンガ造りの建物が囲んでいる。ここには彼女以外誰もいない。いつもここには彼女しかいない。
 寂しくて、悲しくて、怒りで、絶望で、僕の心は占められる。どうしてこんな気持ちになるのかもわからない。どうして、どうして、どうして、こんなにも心が乾いているのか。
 口から血を流しながら彼女の目はこちらを見つめていた。そこには死に対する恐怖も、苦痛に対する狂気も宿ってはいなかった。あるのは優しい眼差しだけ。その理由も僕にはわからない。
「そんな顔しないで……」
 僕は驚いた。いつものように彼女はゆっくりと口を動かした。でもいつもと違った。彼女の呟きが聞こえた。
 徐々に生気を失っていく彼女。僕は必死で彼女の声を聞こうとした。夢なのに。ただの夢のはずなのに。僕は必死で耳を傾けた。雨が作り出すノイズがうるさい。
 彼女が微笑む。とても美しくて、その微笑みはとても痛かった。
「――――」
 消えていく世界。ノイズが大きくなっていく。
 ザ――
 ザ――
 待ってくれ。消えないで。
 僕は必死で懇願した。黒く染まっていく世界の中で。全てが闇に飲み込まれていく。これ以上は見せたくないかのように。夢が崩れていく――
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