ブラッディクロス

□一章
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「今日はどっか寄るのか?」
 午後の授業が終わり放課後。荷物を片付けていると前の席に座る大樹が後ろに振り向いて話しかけてきた。
 僕らは部活動に所属していないのでよく二人で一緒に帰っている。その途中にある街でよく寄り道をしているのであった。
「んー、特に決まってないけど」
 その返事に満足したのかうれしそうに笑う。
「そうか。それはなによりだ。なら付き合って欲しいとこがあるんだけどさ」
 今日は珍しく大樹が誘ってくる。いつもは街に着いてから適当に二人で寄る店を決めていたのだが。
「うーん。まあ断る理由もないし、いいよ」
 特に断る理由もないので大樹の提案に同意する。
「よしっ! そうと決まれば早速出発だ!」
 勢いよく僕の腕を掴んで走り出す。あやうく転びそうになったがなんとか体勢を整える。
「ちょ、そんな急ぐ必要なんて……」
「青春は待ってくれないのだ!」
「知らないよ!」
 詳しい話もされないまま大樹に引かれるがままとなる。
 下校中の生徒たちをかき分けて僕たちは全速力で町へと走った。


 学校から十分ほど歩いて着くことのできる距離にその街はある。今日はその半分以下の時間でたどり着いた。
「で、どこに行くの?」
 学校とは違い緑の数が少なくビルが立ち並ぶ都会の風景がある。その急激な風景の変化もおもしろいといえばおもしろい。
「知らん」
 僕の質問に一言で答える大樹。
「ええっ!? どういうこと?」
 普通は誘うとき事前に行く場所を決めてるはずなのにそう即答されたのでびっくりした。
「いや、実はな……明日美羽の誕生日なんだよ」
「ああ、なるほど」
 つまり大樹は僕に妹の誕生日プレゼントを一緒に選んでほしいということか。
「でもそういうのって女の子に聞いたほうがいいんじゃないのかな」
「コショーなら大丈夫だろ」
「なにが!? そのまかせて安心みたいなのやめてよ!」
 僕男なんだけど。女の子が喜びそうなものなんて全くわからない。
「そういうのは奈織に聞けばよかったんじゃないの?」
「それはだめだ! あいつにそんなこと聞いたら何をされるかわからん!」
 うーん、確かに見返りに何かしろとか言われそうだけど。
「とりあえず行き当たりばったりだ。適当にそれっぽい店に入るぞ」
「それっぽいて……」
 とりあえず女の子がよく行きそうな場所を回ってみた。
「これどうだ?」
「うーんお菓子はちょっと違うような……」
「これは?」
「そんな高いネックレス買えないでしょ」
「こ、これってどうなんだ?」
「妹に下着をプレゼントするお兄ちゃんって嫌だよ! ていうか恥ずかしいから早く出ようよ! すごく場違いだよ!」
 そんなこんなで美羽ちゃんのプレゼント探しは難航していた。
「うーんわからん……」
「なんだか疲れたよ……」
 女の子しかいないような空間に男二人組みで行くという、ある意味罰ゲームな行動に心身ともに疲れていた。大樹は平気そうだが僕には店内での視線の集中は辛いものがあった。
「ねえ大樹。美羽ちゃんは何が趣味なの?」
 悩んだ挙句、やはり本人が好きそうなものを選んだほうがいいだろうと考えた。
「趣味? 美羽の趣味か……。うーむ、なんだろう」
「なんでもいいんだよ。いつもしていることとか、部屋によくあるものとか」
「うむむ、そういえば部屋にぬいぐるみがたくさん置いてあるな」
 なるほどぬいぐるみか。女の子らしい。ぬいぐるみが大量に置かれた部屋を想像する。その部屋でぬいぐるみに語りかける美羽ちゃん。うん、かわいらしい。
「じゃあそれにしなよ。確かここら辺にそういうお店があったはず」
 というわけでそのようなお店を探し出して二人で物色。店内は女の子だけでなく男もちらほらいたので安心した。
「こういうのってよくないか?」
 思い思いに品物を見ていると大樹が声をかけてきたので振り返る。大樹の手には一つのぬいぐるみが。それを見て素直な感想。
「どこがどういいのかわからないよ。何それ、なんの動物?」
 大樹が手に持ったぬいぐるみ。主に緑色の体色で黒い斑点がある。蛇みたいだが手足があって顔は鳥っぽい。なんだかグロテスクだ。こんなにぬいぐるみがたくさんある中でどうしてそれを手に取ったのか。
「だめか?」
 不思議そうな顔でそのぬいぐるみを眺める大樹。どうやら大樹には何がだめなのか理解できないらしい。
「いや、だめとは言わないけど美羽ちゃんの趣味には合わないと思うよ。これとかは?」
 そういって手にとってみたのはうさぎのぬいぐるみ。なんとなく美羽ちゃんっぽいイメージだったので選んでみた。
「ふーむ、そういうのがいいのか。やっぱりコショーを連れてきて正解だったな」
 うんうんとうなずく大樹。別に僕である必要はないと思うけど大樹のセンスでは誰かを連れてきて正解だったと思う。
「よし、これにしよう! 買ってくる!」
 いってらっしゃーい、と見送ってふと考える。ここはやはり僕も何かプレゼントを用意しないといけないなと。しかしぬいぐるみは大樹が買っているので同じようなものはちょっとな。
 そんなことを思っていると店の向かい側に女の子向けのアクセサリーを売っている店があるのを見つけた。アクセサリー、か。いいかもしれない。そう思っているとプレゼント用にデコレーションされた袋を持って大樹が帰ってきた。
「買って来たぞコショー。選ぶの手伝ってくれてサンキューだ」
「どういたしまして。僕も美羽ちゃんに何かプレゼントしたいからちょっと付き合ってくれる?」
「もちろんだとも」
 大樹を連れて向こう側にある店へと入る。店内はどこか女の子のふわっとした雰囲気で満たされていた。やっぱり居辛い。でもここで引くわけにもいかないので並べられた商品をいろいろと見て回った。
「コショー、何探してんだ?」
「わからないけど、何かいいのないかなって」
 ほんとにいろんな種類のものがあって迷う。どんなものがいいのかわからないので自分のセンスを信じるしかない。
 膨大な種類の商品を一つ一つ丁寧に見ていく。ふと目に留まったのはハート型のペンダント。そんなに高級感はないけどかわいらしいものだ。値段もおてごろ。
「これ美羽ちゃんに似合いそうだよね?」
「へえ、いいんじゃねえか? でも俺はこれが気になる」
 そう言って指差しているのは大きな髑髏のネックレス。大樹、どう考えても美羽ちゃんにそれはないよ……。
「うん、これにしよう」
 僕は自分のセンスを信じてそれを買うことにした。
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