ブラッディクロス

□一章
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「なあ、今日の昼飯どうする?」
 朝のホームルームが始まるまでの自由時間、今日の授業の予習をやっていた僕に復活した大樹がそう声をかけてきた。
「どうするって、いつも通り食堂だけど?」
「そうか。一つ提案なんだが、昼飯をかけて勝負しないか?」
「ん、勝負して勝ったほうが昼飯をおごってもらうってこと?」
「そうだ」
 学生の間で行われる他愛のない賭け事。お金をかけるのではなく昼飯やジュースをかけるところがポイントだ。別にギャンブルが好きなわけではないが、ただ飯を食えるのはおいしい。
「いいよ。何して勝負するの?」
「ふっふっふ……」
「な、何をするつもりなの?」
「それはだなあ! 何がいい?」
「決めてなかったのかよ!」
 すっごい自信満々に言うもんだから決まっているかと思ったのに。
「なんかないの?」
「腕相撲とかは?」
「大樹が勝つに決まってるじゃん」
 体格差がありすぎて勝負にならない。逆に授業中の小テストで勝負すると僕が必ず勝つだろう。
「うーん、他に何があるか。ジャンケンとかか?」
「ありきたりだね。でも、他にないか……」
「ちょっと待った!」
 何も思いつかないのであきらめてジャンケンにしようとしていると静止の声。清水さんだった。なぜかとても勝ち誇った顔をしている。
「これで勝負するのはどう?」
 そう言って机の上に置かれたのはサイコロだった。サイコロとは立方体であり、一から六までの数がそれぞれの面に描かれたものである!
「丁か半かで勝負ってこと? でもこれ一個しかないよ」
「ちょう? ああ、ちょうちょのことか。でもはんってなんだ?」
「……いいえ、一個でも勝負はできるわ」
「はん……なんだか贈り物みたいだな」
「……奇数か偶数かで勝負するってこと?」
 それはハムだというツッコミはなんとか抑えた。
「まあそういうことね。大樹、ルールを説明するわ」
「おう」
 サイコロを指先でつかみ、大樹の顔に見せ付けるかのように近寄せる清水さん。なんだか手品師が客に種も仕掛けもないよと確認させているみたいだ。
「ここにサイコロがあります。あたしが今からこれを振る。サイコロの数が奇数なら大樹の負け。偶数ならあたしたちの勝ち。わかった? いくわよ」
「おおし、どんとこい!」
 ん? 今の説明、なんかおかしくなかったか?
 僕の疑問をよそに清水さんの手から離れたサイコロが机の上に落ちる。何度か小さく跳ね転がり、一つの数を表して止まった。数は、三。
「奇数、大樹の負けね」
「ちくしょう!」
 本当に悔しそうにこぶしで机を叩く大樹。結果は当然のものだった。どんな数字が出ても大樹に勝ち目はなかったのだから。なんとあくどい手口だろう。勝負は説明したとき既についていたのだった。大樹が相手だからこそ出来るイカサマ。それをためらいもなく実行した清水さんに畏怖の念を感じる。
「じゃあお昼はあたしとコショーの分、おごってもらうからね」
「くっ……俺も男だ、二言はない!」
 かっこいいセリフだがかっこ悪い状況の大樹。悪いのは頭もだろうか。そしてもっと悪いのはちゃっかりと自分の分もおごってもらおうとしている清水さんだった。
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