ブラッディクロス

□一章
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   第一章 来訪者は告げる


 僕が天ヶ崎高校にきてから二ヶ月がたった。
 両親が物心つく前に他界していて、そのため親戚の家に引き取られていたのだが、約三ヶ月前にその親戚が仕事の都合で海外へと行くこととなった。
 僕としては日本から離れるのは抵抗があり、だからといって親戚の家に一人で住むわけにもいかないので寮のあるここ天ヶ崎高校へと転校したのだった。
 二年の始めからの転校だったためか思ったよりもクラスメイトたちと打ち解けることができ、今ではここでの生活を楽しんでいる。
 少し都会から離れた天ヶ崎は緑でかこまれており、春から夏へと移りゆく様子がよくわかる。
 いい感じに古びた校門をくぐりぬけ生徒たちでにぎわう校舎への道をゆっくりと進む。
 今日は何かいいことがありそうだ。ふと、そんなことを思った。
「おーい、そこの女装趣味! ちょっと待ってくれ!」
 全て台無しだ。
「いや、今日も清々しい朝だな」
 さっきまでは僕もそう思ってたよ。駆け寄ってきた男子生徒、吉川大樹をにらみつける。
 同じクラスの大樹はお調子者で知られている。ムードメーカーと言ってもいいかもしれない。背が高く僕の頭の位置に肩がある。筋肉質な体だが決して見た目がごついというわけではない。人のよさそうなたれ目と、能天気そうな笑顔だ。あと特徴を挙げるとすれば、頭が少し残念なところか。
「僕は女装趣味なんかじゃない。こんな人の多いところで誤解を招くことを言わないでよ」
 大樹の発言で周りにいた生徒たちが僕から離れていた。集まる視線が痛い。
「誤解もなにもやってたじゃん」
「あれは無理やりじゃないか! 僕が自分の意志でしたわけじゃない!」
 先月行われた文化祭で僕はクラスのみんなの策略により女装をさせられ、体育館でその羞恥の姿を全校生徒にさらされたのである。唯一の救いは女の子の格好をしていたのが僕だと公にされなかったことだろう。知るのはクラスメイトだけだ。
「やったことには変わりないだろ? 似合ってたぜコショー」
「褒められても全くうれしくないよ!」
 女装が似合うなんて一般的じゃない特技を持ちたくはない。ちなみにコショーというのは僕のあだ名だ。この学校に来てから付けられたあだ名で、名付け親曰く僕は名前負けしているので、名前の読みをコショーと簡略化したほうが似合っていると。他のクラスメイトも便乗し、僕のあだ名はコショーとなった。
「朝からかりかりしてるなー。カルシウム不足か? 鉄分を取れ」
 かりかりしてるのは大樹のせいだ。あと、カルシウム不足と鉄分は関係ない。
「あいっかわらず仲がいいね、あんたらは」
 下駄箱で靴を履き替えていると、どこか呆れたような声が聞こえた。顔を向けると、これまたクラスメイトである清水奈織が僕たちを見ていた。活発そうなイメージのショートカットに強気な印象を与えるツリ目。整った顔立ちは美人といっても差し支えない。
「なに? デキてるわけ、あんたら」
 何をおっしゃいますかこの人は! ひどく愉快そうな笑顔でからかってくる、大樹とは別の意味で危険人物。ちなみに二人は幼馴染みらしい。
「なあ、できるってどういう意味だ?」
「ち、近寄るな!」
 耳元で話しかけてくる大樹のみぞおちをぶん殴る。
「い、いきなり何を……」
 理解できないという顔でうずくまる大樹。ごめん、でもこの状況で顔を近づけてきた大樹が悪い。
「あははは! ほんと、おもしろいわー」
 爆笑する清水さんとうずくまったままの大樹を残してさっさと教室へ向かう。これ以上この場にいても余計な混乱を招きそうだし。
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