ブラッディクロス
□プロローグ
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プロローグ アカイユメ
雨が降っていた。
とめどなく降り続けるそれは全てを洗い流すように体を叩く。
しかし真っ赤に染まった世界は流れ落ちることなく形を保つ。それはまるで希望を打ち砕くように。
赤いのは倒れ伏した彼女か、それとも自分自身か。
わからない。視界は全てが燃えるように赤く染め上げられていた。
苦しい。息が詰まる。心臓は狂ったように跳ね回っている。
どうして、と口から言葉が漏れた。
視線の先にはこの世界よりも真っ赤な十字架。深紅色のそれは彼女の腹部を貫き凄然と直立している。
貫かれた場所からは止まることなく血があふれ出ていた。血だまりの量からすでに彼女の命が助かるものではないとわかる。
口から血を流しながら彼女の目はこちらを見つめていた。そこには死に対する恐怖も、苦痛に対する狂気も宿ってはいなかった。あるのは優しい眼差しだけ。
「――――」
彼女はゆっくりと口を動かして何かを呟いた。しかし何を言ったのかは理解できなかった。
徐々に生気を失っていくのがわかる。可憐な顔立ちは病的なほど白くなっていた。
見ていられない。顔を背けたい。でも、できない。彼女はずっとこちらを見ているから。死にゆく中でずっと微笑みかけているから。
「――――」
再び口を動かして彼女の瞼が静かに閉じていく。雨にぬれた顔は穏やかでとても美しかった。
消える命。それを見届けながら世界が暗くなっていくのを感じた。
視界はゆっくりと黒く染まっていく。雨音だけがノイズのように聞こえている。
ザ――
ザ――
これで何度目だろうか。一体この夢はいつになったら終わるのだろうか。
何度見ても彼女はこうして死んでいく。見ず知らずの、しかし心に何かを訴える彼女は一体誰なのだろうか。
一体この夢は誰の夢なのだろうか。
雨音がゆっくりと消えていく。薄れゆく意識の中、夢の終わりが近づいているのがわかった。