ヒバ誕!間に合った!







お誕生日おめでとうございます。
その一言を言いたいがために散々悩んだプレゼント。
しかし、その物もシチュエーションも悩むこと一か月たっても納得いかず。
来るは

5月5日
こどもの日。


現在俺は休日にも関わらず学校に来ている。
静まり返った校舎の中にある特に静かな場所。応接室。
その前でたたずむこと十分。これば覚悟を決める時間だ。今日何が起こってもいいように。
こう見えても十分という迷いの時間は短くなったのだ。
初めてこの部屋を一人で尋ねる時なんか一時間以上ノックもできずに、結局巡回から帰ってきた雲雀さんに見つかる形で部屋に入った。
それに比べれば、十分は短い。
最近はただ尋ねるだけならそのままノックができるし、そのまま入れる。
だけど、今日はそういうわけにはいかなかった。
左手に握った小さなメモ用紙。
そのお蔭で不覚にも家を出るのも遅くなってしまった。
ちなみに、応接室の前で待っているのは十分だが、行くといった時間からは二時間ほどたっている。
(・・・お、お、お、お、俺の意気地なし!)
いい加減にしなくてはと左手の神を手の中で小さく丸めた。

コンコンっと廊下に響く簡素な音。
どうぞっと声が返ってくる。そんなことにもドクンッと心臓が高鳴った。右手は少し震えていた。
体全体が心臓になってしまったかのように足の先から、天辺まで脈が震えて、死ぬ。
くそっと拳を握りなおして扉を開けた。

「今日は随分と遅かったね」
部屋の中央奥にあるデスク。そのチェアーにどっしりと構えるように座っているのは王様。
相変わらずのその堂々たる態度というか姿に、妙に緊張しているこっちが恥ずかしくなる。
(優雅にコーヒーなんか飲みやがって、クソッ!)
相変わらず収まらない心拍数と汗ばむ左手の中にある小さな紙の感覚。
もう、どうにでもなれ。

「ヒ、ヒバリさん・・・お、お、お誕生日、おめでとうございます」
「うん」
声が震えた。
雲雀はコーヒーをとって一口飲んだ。
なんだが、俺の様子を見て楽しんでいるようにも見える。
それにも腹が立つ。でもきっと今から言おうとしていることを知っているわけじゃない。
ただ何となく今日という彼の誕生日に俺が何かしようとしていることだけわかってるんだ。
普段からバカにされてばかりで、いっつも主導権を握っているのは俺じゃない。
それを握るために今日は先生から魔法の言葉を貰ったんだ。
紙かかれた魔法の言葉を不意打ちで言ってやればどんな奴も多少同様するだろうと。
そのために今日は勇気を振り絞ってここまで来たのだ。
(コーヒーなんて飲ませてたまるか!)
誰でも落ちる魔法の呪文。


「ヒバリさん!今日の誕生日プレゼントは・・・」
「うん?」
「お、お・・・お、お、お、俺です!!!」

部屋中に響き渡る大きな声で叫んだ。
途端に雲雀はまた飲もうとしていたコーヒーを勢いよく吹きむせてる。
(・・・お?この反応は・・・!)
バクバク言っている心臓の音で体がおかしくなりそうだけど、コーヒーを吹いた彼の様子を見てちょっと口元がにやけてしまった。
作戦大成功だ。
コーヒーのカップを机に戻して、口元を抑えなきゃならないくらいにむせている。気管にでも入っただろうか。しかもちょっと顔が赤い。
なんにしてもちょっとうれしい。
右手でちょっとガッツポーズをとりながら生唾を飲んだ。
実を言えば、俺と雲雀さんは付き合ってはいるが、その、つまり・・・したことはない。
雲雀も気を使っているのか、単に風紀委員長として規律を守っているのか、なんにしてもしたことはない。
だから、今回悩みに悩んで浮かばなかったプレゼントに先生からの魔法の言葉を借りたのだ。
ふと、視界が暗くなる。
見上げればすぐそこに雲雀がいた。
「っ・・・!」
「・・・今まで、我慢してのに」
いいの?と耳元で聞きながらだんだん壁のほうに迫ってくる。
聞いてるくせにもう逃がす気はないようだ。
また、心臓の音しか聞こえなくなる。
静かな応接室。誰もいない休日の校舎。聞こえるのは二人の息の音だけ。
ここまで来て、何が「いいの」だ。二時間悩んでここに来たんだとまた生唾を飲む。

「男に二言はありません」

END

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