パラブレムワールド
ホモとゲイの違い。
ホモはたまたま好きになってしまった人が男だった。 ゲイはもともと男にしか興味がなく、ガッチリマッチョを好む。
そんなどこの誰のかも分からないネットでの解釈を読んで、なら俺はホモになるのかと綱吉はよくわからない解釈を一人でしていた。
「って、何調べてんだ俺」
晴れ晴れとした快晴の日に、家に勉強しにきていた獄寺くんがコンビニに行っていて居ない間に、彼が置いていったケータイを触っていると、なぜかそんなことを調べていた。 調べて、結果が出てそのあと後悔した。 我に帰って自分のしていることを客観視してみるとひどく落ち込みたい気分になる。こんなことを調べて、納得して、自分はつまりホモでゲイではないということになんらかの安心感を抱いているということに。 いや、ホモでも問題はあるのだが。 問題はある、いや、問題だらけだが。なんとなくゲイという響きよりは、ホモの方がまだ・・・いや問題だらけだが。 なんて、考えてるこの自分の姿がとてもシュールだ。 友達の携帯でこんなことを調べて、それについて一喜一憂している自分がいる。 とてもため息をつきたい気分になった。
外の風を取り込もうと開けてあった窓から空が見える。なんとも言えぬ快晴。眩しい。なんというか身持ち的な部分で。 素直に認めるにはなかなか難しい問題だ。やっぱり、ホモもゲイもどっちもあまりいい響きではない。
なんて、思っていたのに。やっぱり目で追ってしまう。 肩にかけられた黒い学ランを、さらさら風になびく黒い髪を。日焼けを知らない白い肌を、切れ長い綺麗な黒い瞳を。 視界の隅にほんの少し入っただけで息が詰まって、ふっと体が暑くなる。 心臓が少しずつ早く動いてきて、完全に視界に捕らえてしまった時には、もう自分の体ではないかのようにコントロールできなくてドキドキが脳みそも心臓も腕も足も口も目も全てを麻痺させる。 そんな感覚に悩まされるようになって、気づいた。 ああ、俺はあの人が好きなんだって。 それが男だろうと、こんなにドキドキして、どうしようも無いくらいしどろもどろになってしまうんだもの、これが恋じゃないとい言うならなんと言うだろうか。 そう。 綱吉は雲雀恭弥のことが恋愛感情的に好きだ。 いつからかなんてのは分からない。いつのまにか目で追うようになってて行動が気になって、一緒にいる時間が楽しく思えた。 昔は怖かったはずなのに。 でも、あの人のこと内側を垣間見るたびそんなことを感じなくなって行った。 雲雀恭弥は強い。戦闘にも精神的にも。 そして、優しいのだ。 綱吉は雲雀に何度助けられたか分からない。 普段からもトロイ綱吉は何もしていないのに不良に絡まれることがある。別に死ぬ気になればなんともない相手なのだろうが、一般人に手を上げることはできないので、いいように殴られることもある。そんなとき、いつも雲雀が助けてくれるのだ。たまたま彼の巡回の時間に当たるのか、彼はなんでもないかのように綱吉をいたぶっていた不良をボコボコにして、傷だらけの綱吉をみてため息をつく。 君は傷を作るのが趣味なの?なんて言いながら、手当してあげると応接室まで連れて行ってくれるのだ。綱吉にとってはそれが嬉しくてたまらなかった。彼に優しくしてもらえることが特別なことのような気がして、たくさん殴られたのにその言葉だけでもう手当なんかしなくても傷が治ってしまいそうなくらい嬉しかった。 別に、だから不良に絡まれるってわけではない。奴らが勝手に目標に定めて絡んでくるのだが、それでも雲雀に会えるならプラスマイナスゼロと考えてもいいだろう。 それに、雲雀にお世話になったのはこればかりじゃない。 このマフィアの出来事に巻き込んでしまってからずっと雲雀にはお世話になってきた。 ザンザスとの戦いも、猛毒に耐えながら戦ってくれた。未来に飛ばされた時なんか十年後の彼に戦いを教わったし、その大人になった彼は一人で大人数を相手に自分たちの道を開いてくれた。その後にきた自分のよく知る雲雀も一緒に戦ってくれたし、その後に起きたエンマとの事件では、悩む綱吉に信じるものを自身で見せて教えてくれた。 顔には出さないのに、口では群れるのは嫌いなんて言っているくせに、なんだかんだ言っていつも憎まれ口を言いながら励ましてくれる、ヒントをくれる。 そんな雲雀なりの強さと優しさにいつの間にか、憧れていたら、好きになってしまっていた。 最初はもちろん違うと思っていたけど、そう自分に嘘を付くのがだんだん苦しくなってきてとうとう認めてしまったのだ。 男だけど、自分が女々しいとか男しか好きになれないとかじゃなくて、雲雀が好きだった。 そんな思いは日に日に増していき今じゃいつ零れてしまうかわからなにくらいに胸一杯に想いがあふれている。
好き、好き、好き好き好き好き好き好き好き、大好き。
でも、と思った時、綱吉は今日何度目になるか分からないため息をついた。 人があふれる教室の中にそれは誰にも届かず消えていく。 昼休みの時間教室のあちらこちらで机を動かしたりしてグループで昼食をとっている生徒たちがいる。教室中に広がる楽しそうな声や、笑顔を綱吉は遠い目をして見つめていた。 大変楽しそうでいいですね。なんて思わず嫌味を言ってやりたくなってしまう。 こっちは胸の苦しみでご飯が喉を通らないのに、パクパクと美味しそうに飯を食いやがってくそぉぉ、なんて勝手に睨みつけて一人また机に突っ伏す。 でも、胸の苦しさでご飯が食べれないってのは嘘。 綱吉にとってそんな時期は等にすぎてしまった。好きで、四六時中雲雀の事ばかり考えちゃって、ご飯が喉を通らなくて、ちょっと目があっただけで天にも上るような気分になるのはちょっと前の話だ。 今はもうちょっと冷静に理性的に居られる。 もちろん好きだし、目が会えば心踊るし、頭の中を雲雀で一杯にしちゃう時もあるけど、それと同時に理性も働く。それに目が合う度、話が出来る度に欲求は増え感情は貪欲になった。 目が会うだけじゃなくて、会って話がしたい。こっちを見つめて欲しい、名前を読んで欲しい、自分のことを考えて欲しい。そんな感情が溢れ出すから、ちょっとはため息を突きたくなる。 好きが先行しすぎる。こんなならもう全ての感情をさらけ出して振られた方がマシなのかもしれないが、欲求のせいで綱吉は今の関係を崩す勇気がなかった。 うだうだ考えてたら、ぐううっとお腹が鳴った。 はぁっとまたため息がでる。恋愛事情なんかでご飯が通らないなんてやつじゃない、たんに今日は食べる弁当がないのだ。 入れてきたと思った鞄の中にいつもの包みが入っていなかった。母さんの愛情たっぷり弁当をどうやら忘れてきたらしい。こんな日に限ってお金を持っていないし、山本は野球部のミーティングでいなし獄寺はイタリアだ。これに気づいたのが山本を見送った後だったせいで誰かに頼る事もできなかった。 こんな時こそ、自分のおかれた状況を利用して応接室に行きお昼忘れちゃったんで助けてくださいなんて言って泣きついて雲雀のそばで昼食を取る、なんて勇気を出してみてもいいのかもしれないが、なんとなく今日はそんな気分になれなかった。 唸りを上げる腹の虫は怒鳴ってもおさまってくれないだろうから、気分転換に屋上にでも行くとする。 楽しそうに友達と団欒しているクラスメイトを見ているよりは、空を眺めて昼寝でもした方がいいと思った。腰を上げ出口へと向かう。日陰があるといいなと思っていた綱吉の計画は扉を開けたところでいったん中止になった。 「―――っ!?ヒバリさん?」 扉を開けると、ちょうどタイミングが悪かったのか、空中に浮かせた何かをつかもうとしていた手と驚いたような顔をした雲雀がそこに立っていた。珍しく切れ長の目が少し見開いている。 そこから察するに、どうやら扉を開けようとしてた所を先に綱吉が開けてしまったのだろう。 なんとなく気まずい空気が流れようとした時、自己を取り戻した雲雀が何かを綱吉の顔の前に突き出した。 近くて良く見えなかったが、突き出され鼻に押し付けられるそれを手で掴むと雲雀が手を離した。離して見てみるとそれはよく見た事のある包みで、いつも綱吉の弁当を包んでいる物だった。 「これ・・・」 もしかするとこれは、綱吉の忘れてきた弁当だろうか。 気になり包みの紐を解いて中身を確認するとそれはやはりいつも綱吉が使っている弁当箱だった。 どうして雲雀が綱吉の弁当を持っているのだろうか。瞬きをしながら無意識に首をかしげるとため息が聞こえてくる。 「君の母親に会ったとき渡された」 「え?母さんに会ったんですか?」 「ちょっと外に出ててね。君の家の近くを通ったらたまたま会って、頼まれたから」 へえぇ、この人ウチの母さんの頼みごと聞いちゃうんだ、とか思いながら綱吉は声を漏らす。 雲雀と綱吉の母親の奈々は実は面識がある。というか、実は雲雀は時々沢田家でご飯を食べる事がある。 雲雀と綱吉の付き合いは何気に長い。 そして学校の人間達は知らないだろうが結構親しいのだ。 風紀の手伝いをする事もあれば、流れで昼食を一緒に取ったこともある。そんな時雲雀が綱吉のお弁当のおかずを食べたりなんかした時に奈々の料理が気に入ったのか、憂さ晴らしの戦闘に付き合わされてずたぼろにされて送ってもらった時とかに奈々が誘った夕食を食べて確信を持ったのか、たまに一緒に食卓を囲んだりしている。 雲雀も美味しい物を作ってくれる人には親切なのかと思った。 「今日はいつもの取り巻きいないんだね」 「え・・・ぁあ、今日は二人とも忙しくて」 「君今から一人で食べるの?」 一瞬何を聞かれたのかと思った。一人で食べるのっと言ったのだろうか。 雲雀がまさかそんな事を聞くなんてと思いながらも、あ、まぁそうですね。なんて曖昧に返事をする。 もし、本当にそう聞いてきていたなら間違った答えじゃない。二人とも居ないし、このまま教室で食べても屋上へ行って見ても結局は一人だろう。なんでこんな事を聞かれるのかと、もしやお昼に誘ってくれるのかと変な期待を抱きたくなる。 まぁ、この人がそんな誘いをいうわけがないが。
「じゃぁ、一緒に食べる?」 「ブッ!!!」 な、なんて事だ! 自分の考えてる事を言い当てられるかのようにあの雲雀がとんでもない事を言い出したせいで綱吉は盛大に噴き出してしまった。 大丈夫?なんて聞いてくるこの妙に可愛いイケメンが鬱陶しい。イケメンのくせにそういう風に子供っぽくするとか反則だ!なんて思っても、大丈夫ですと綱吉は口元をぬぐった。 自分は面食いだったのかと雲雀を見ていると思う。 確かに雲雀の事を好きになったきっかけはいろいろあったが、やっぱりこの顔じゃなくてとんでもないブサイクにカッコいい事言われてもこんなに心に残らなかったと思う。生き方もカッコいいが、正直雲雀は男から見てもイケメンだ。 顔を好きじゃないとは到底言えない。それだと、やっぱり面食いの気があるのかと思うと、ちょっとだけ複雑な気分だ。 それにしても、いきなりどうしたのかと瞬きをしながら見てしまう。なにか企んでいるのだろうか。甘い誘いをかけて置いて食事をした後運動とか理由をつけて戦うつもりだろうか。タダで甘い話があるはずないと嫌というほど家庭教師に教え込まれたせいかそんな事ばかり考えてしまう。 「べつに何も考えてないよ、さっき外に出てたって言ったでしょ?そのせいで僕もまだお昼食べてないだけ」 「え・・・」 本当に心読むのをやめて欲しい。というか、なんなんだろうこの人は。 また思っている事に対して答えていただいたおかげで綱吉はまた何も言えなかった。これではまるでテレパシーで繋がっているみたいだとか馬鹿な事を考えてしまう。 あ、いや綱吉には雲雀の気持ちが読めないので一方通行なのだが・・・ 「で、食べるの?食べないのどっち?」 「あ!・・・たっ、食べます!一緒に食べたいです!」 そんな事を思っていたら雲雀がどうやらしびれを切らしたらしい。強引に二者択一を迫られるが綱吉は迷わずYesと答えた。 そんなの迷うわけがない。だってちょっとでも一緒にいられるチャンスだ、これを誰が逃す物かと綱吉は笑顔になった。 綱吉の答えに満足したのか雲雀も機嫌良さそうに、そうとだけ言って廊下を進み出す。これはついて来いという事だろう。 廊下を進む雲雀の背中を小走りで追いかけた。後ろではためく黒い学ランが優雅そうだった。 「あ、お茶は出してあげるけど、その代わりお弁当届けてあげたお礼で今日もよろしく」 「え?・・・あ、ああ、はい!」 隣に並べば、雲雀から話しかけてくる。 雲雀がなにを言いたいのか、その内容くらいなら、はっきり言わなくても綱吉に通じたようだ。
パラブレムワールド おまけ おまけページただいま準備中。更新は10月1日を予定していましたが、リアマフィの原稿のほうが詰まっていますので、リアマフィ終了までお持ちください。本当に申し訳ありません。 この先は本を購入いただいたのみご覧いただけるおまけページです。 パスワードはあとがきページに書いてあるパスを英語に変換してください。 購入者のみにしているのは本はこのサンプルのみでは理解できない内容になっているためですので、ご了承ください。
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