D.Nover再録

□俺の碧
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「僕が嫌い?」

放たれた言葉に思わず目を見開いてしまった。

キライ…

頭の中でその言葉が渦を巻くように回っていく。

―――キライ?
…じゃないけど、キライになんてなれないけど、優しすぎる人だから……でも…でも、

唇が少しだけ空いてまた閉じる。
声が出にくかった。でも…
握った拳にもう一度力をいるて掠れてしまいそうな声言った。

「…キ、ライ」

全く目を合わさず下を向いたまま言った。
自分でも驚くほどに声色もいつも通りだったけど、

「本当に?」

帰ってきた言葉にビックリした。
普通「キライ」と言っている人間に「本当?」 と返す人がいるだろうか、しかも聞出したのは自分なのに。
ビックリしてゆっくり顔を上げると雲雀と目があってしまった。

ドクンッ

鼓動が跳ねるのが自分でも分かった。
真っ直ぐ見つめられる真っ黒な清んだ瞳は黒の中に輝があって、全てを見透かされているようだった。

自分の気持ちも、それと矛盾している気持ちも、

「キライ。」

吸い込まれそうな瞳を避けもう一度言う。


本当の気持ちを言ってはいけないから、矛盾の方の言葉を。

でもこれでこの人が自分から離れてくれるならいいと思った。
大きな傷がつく前に自分の言葉で傷つけて嫌いになられるくらいなら、俺が我慢できる。
この人を守るならそれでいいと…


「じゃぁなんで泣いてるの?」

再び響いた声がなにを言っているのか言葉の意味が分からなかった。

―――泣いてる?

そしてハッと自分の頬に触れれば透明な水が流れていた。

「あれ…」

―――ナンデナイテイル

静かに涙だけが流れていた。

「あ、あれ。」

―――どうして俺はナイテイル?

涙なんて久しぶりに流した。
今までどんな事があっても泣く事だけはなかったから、自分の涙は枯れているのだと思ってたのに、自分の中から「悲しみ」なんていう感情は消したと思ったのに。

今日は変だ、なぜか詩を書いてしまったり、涙を流すなんて…
いや、今日だけじゃないだろう。
この人と出会ってから自分はまた人間らしくなってしまったんだ。


自分の存在のせいで近くにいる人が傷つくなら、近付かない、近付けないを守っていたのに…この人は違った。
興味をもった人間にはどんどん近付いてきて、いとも簡単に心を見抜いて、いつの間にか俺も心を許してしまっていた。

でも、自分にダメだといい聞かせて距離を持とうとした。

それに、今度彼を求めたらきっと、きっと…

「ハハハ、なんで泣いてるんだろ。」

笑って誤魔化して、急いで涙を拭っても止まらなくて、俺は戸惑った。こんなに取り乱したのは初めてだったし。

よく分からなくなって、ただただ瞳を擦っていたら腕を捕まれ何かに引っ張れた。

「えっ!」

捕まれ引っ張れた俺はただ暖かい温もりに抱き締められていた。
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