それは君と僕の物語

□私の人
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……今日の空はなんだか雨が降りそう。
鞄に入れた折り畳み傘を確認し、私は学校へと向かう。


『よう、藤川。おはよう』


「おはよう。」


バス停に着くと彼がいた。
私が高1の時から片思いをしている彼、斎藤奏斗。
毎朝斎藤と会えることが私のささやかな喜びだった。


『今日は数学があるんだよなー。俺苦手でさ。』


「……そうなの?」


『数学がというか、先生が苦手なんだよ。』


(なるほど。)


斎藤は学年でも上位に入るほど頭がいい。
それでもって運動も出来て容姿端麗。
先輩からもそして、今年入った後輩からも人気がある。
もちろん同級生も例外ではない。


(好きです……なんて言えるわけないよ。)


私も斎藤も今年で高校2年生。
1年生の頃は同じクラスだったので、ここまで話せるようになったけど……

2年生になってクラスが離れてからは、毎朝のこのバス以外は話すことはない。
なんとなく前より遠くなった私たちの距離。


(はあ………。)


『っ雨降ってきたな。藤川、ほら入れよ。』


「……え!ああ、うん。ありがとう。」


(傘持ってるんだけどね……。)


彼がそっとかけてくれた傘が嬉しくて。
肩こそ寄り添えないけれど、それでもなんだか離れたくなかった。

二人で入るには傘は少し小さくて、少し恥ずかしいけれど。


危なかったな、なんて言いながら誰にでも明るい笑顔で話しかけるところ。
それが斎藤の魅力の一つ。


そんな笑顔を向けられると私も笑顔になれる。
彼女でもなんでもない私に、そうやって向けられるもの全てが愛しい。


(このままでも十分だよ。)


学校は少し遠いけど、斎藤と一緒なら時間がもっとあっても良かった。
学校に着くと早く明日になればいいと、毎日のように思った。


次の日も。


その次の日も。



彼と私だけの時間が続くと思っていた。
ある日バス停に行くとそこには斎藤ともう一人の影が―。


(誰……?)


『おはよう、藤川。』


[おはよう、藤川さん。]


「おはよう。ええと………。」


[奏斗と同じクラスの安部綾乃です。よろしくね。]


(奏斗って………。)


斎藤のことを名前で呼んでいる安部さん。
もしかして二人とも付き合ってたりするの……?
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