story

□サソリ
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窓辺に来る孔雀は彼が好きだ。
大きな羽根をばたつかせては、彼に気付いてといつもアピールしている。斑模様の羽根は日にキラキラ霞んでいた。
嗚呼、でも残念だな。
その位置じゃここからは見えても彼からは見えない。

彼は人形が好きだ。
限りなく人に近い人形が好きだ。
精巧に作り上げられた顔のパーツ。精密に作り上げられた内部の武器。毒、針、刃物、凶器の宝庫。
限りなく外観が人に近い人形の中身は、確実に人の生命活動を止める為の機能を備える。
でも残念だな。
人形はどんなに上手に作っても、人間にはなれない。




彼はいつも人形を相手に1日を終える。私は硝子ケースの中から彼を見ている。カチャリカチャリと無機質な作業音だけがその空間の音だった。
時折緩んだ螺子が外れてコロコロ転がる。彼はそれに気付かないほど人形作りに没頭。
油と木屑と鉄と、たまに血の匂い。部屋に充満するそれすら無視して、彼の人形作りは日が暮れても終わらない。




孔雀はいつも夜明けに来る。
キラキラと羽根をばたつかせて、慌ただしく庭に降り立つ。ただ、その後は動かずそこにいる。ひたすらにそこから見える彼を見ていた。時折バサバサと羽音を立てて、必死に彼に気付いてもらおうとしてる。
独りぼっち。だから彼の友達にでもなりたいのだろうか。
羽根がキラキラと日の光に霞んでいた。




彼もきっと寂しいのだろう。
家の中の人形が増えた。私がしまわれた硝子ケースもいっぱいいっぱいで、少しだけキツい。
それでもひたすらに彼は人形を作り続けた。孔雀も毎日毎日庭に来ていた。変わらない、平行した日々。交わらない二つ。
その頃からだろうか。
彼はたまに外に出て行くようになった。何処に、までは分からない。ただ突然フラフラと外に出て、まばらな時間に帰ってきていた。そしてそれは日を増すごとに頻度も増した。
その間も孔雀は毎日ここに通う。彼がいてもいなくても。同じ時間にきて同じ時間に帰っていった。それだけは変わらなかった。




そしてとうとう彼は帰ってこなくなった。
部屋の中は人形で溢れかえってる。中には作りかけのものもたくさんあった。腕や足、首が床にゴロゴロ転がってる。嗚呼、不気味。なんて、私の体も日に日に錆び付いてきたから言えないけれど。埃だけが空間に積もっていく。
それでもまだ、あの孔雀は来る。
主を無くした家のドアを、傷付いた嘴で叩くのだ。

「開けて、開けて。友達になろうよ」

愛しい人≠ノはなれないから、せめてそばにいさせて、と。

孔雀はドアの前で鳴き続けた。
斑な模様の羽根が、日の光に霞む。







**********
孔雀→幼少時。彼→暁に入隊後。私→死後。
違う時間軸のサソリ。

20091230
 

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