story

□梵天
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「わあ、細い」
「…ちょっと」
「細いね細いねぇ。折れちゃいそうですよ?梵様ちゃんと食べてますか?」
「…離しなよセクハラ妖怪」
「え?急く…?」
「はあ…」

敢えて擬態語にするならベタベタギュー。背後から腰に手を回し、カラカラと笑いながら抱き付いてくる女をじとりと睨み付けた。離せと言うように視線で訴えるが効果はなく。なら、と腰に回された腕に手を添え軽く爪を立ててみた。しかし自分と同様妖である彼女にとって、そんなもの気にとめるほどの痛みではない。あーあ、全く、厄介なものに好かれたな。背中だけが妙に温かい感覚にぼんやりと思いながら口を開く。

「何なんだい君。昼間から男を襲って。悪いけど俺は君をそういう風に見えないから断らせてもらうよ。」
「あはは、天座の君は麗しいお方と聞いていましたが噂以上ですねえ。」

美人だ。なんて。言われて気分は悪くはないが状況に気分が悪くなる。ベッタリくっついたまま全く離れようとしない。一体何なんだ。変態なのか。これじゃあ寝るにも練れないじゃないか。はああ、と盛大にため息をつく。

「ため息つくと幸せが逃げちゃいますよ?あ、もしかしてだから細いんですか?」
「幸せを空気みたいに言うんじゃない。俺は風船かい?そして誰のせいだと思ってるんだい。」

手の甲をギュッと抓ってみる。しかしどういうわけか彼女はこれ以上ないほどの笑顔で抱き付いたまま。鈍感にもほどがあるだろう。表情をひきつらせて彼女を見るが、視線が合えばますます嬉しそうに笑うだけ。ああもう俺にどうしろと!苛々しながら彼女にしがみつかれたままズカズカと廊下を突き進んだ。こうなったら空五倍子か露草に押し付けるか。彼女を無理矢理引き剥がそうとしながら塔の中を歩き回った。

「?」

しかし、何故か気配がない。塔にいない。あのバカ共!肝心なときに何故いない!内心で悪態をつきながら、今尚離れない彼女に観念したようにその場に座り込んだ。

「…いい加減離してくれない?暑苦しいよ、君」
「えええ?」
「それに一体何がしたいわけ?」
「何が、とは?」
「離せって言ってるんだよ。そして意味もなくくっつくのを止めろ。」
「意味ないですかね?」
「ない。皆無だ。」
「えええ?」

クスクスと。可笑しそうに笑う声が何だかくすぐったい。チラリと向けた視線の先にある笑顔は相変わらずだ。次第にそれが間抜けに見えてきて、呆れたようにため息を零す。いや、どちらかというとどうでもよくなったから?きっと頭が弱いに違いないと勝手に納得して一人頷いた。

「露草さんと空五倍子さんまだですかねえ?」
「は?」

え、なに。
あまりに唐突すぎた言葉を聞き返す。何でコイツからそんな言葉が出てくるんだ。訝しげに眉をひそめて彼女を見れば、先ほどから崩れない笑みで答えた。

「空五倍子さんに頼まれたんですよ。梵様一人でお留守番だから見といてくれーって」
「何だいそれは…」

俺は聞いてない!

「だからほら、寂しくないようにギューッと。」
「は…?」

つまり、だ。俺が寝ている間に出かけた空五倍子はこのバカ妖怪に俺の見張りを頼んだわけだ。子供じゃあるまいし必要のないことをして。まったく、あの鳥頭め。

「どうしたんですか?」
「はは…もういいよ」
「?そうですか」

今晩は焼き鳥にでもしようか。
今だ離れない彼女に何とも言えない笑みを向けた後、ぼんやりと暮れなずむ空を見て思った。



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どこまでも意味のない一品その2←
これも単にベタベタさせたかっただけ(どーん

20091028

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