story

□白緑
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キュッと。
折るのなんて簡単な小さな指先が着物の袖を掴む。…手のひらが痛くなるほど着物を握り締めているのか、握り締めた拳が小さく震えていた。あまりに突然のことだったから、しばらく呆気にとられてその様子を眺めていた。そのままの状態で少しの間だけ待ってみる。そして力を強めるたびに深くなる着物のシワをぼんやりと眺めて、何気なしに空を見上げた。

今日は快晴。とりあえず雨の心配なんて杞憂だ。
ではこの間挿し木した小枝かな?ああでも今朝見た限り元気に育っている。
では今私の着物にしがみついているこの子はどうしたのだろう?

一人首を傾げて頭を撫でてみた。しかし依然として彼女の様子は変わらず、それどころかギューッと顔を押し付けてくる。泣いているのだろうか。でも何故?わしわしと撫でていた手を止めて、意味もなく自身の手のひらを茫洋と見詰めた。

普段から、めったに負の感情を面に出さない子だから。だから驚いた。と言ってしまうのはこの子に失礼だろう。でもだからこそよっぽどのことがあったのではと不安になってしまう。それともそれこそ考え過ぎなのだろうか。ああ分からない。
うーん。と一人唸っては吹き抜けた風の冷たさに身震いした。風を避けられる場所に行こう。空いている方の手で、風に熱を奪われていく肌を着物の上からさする。そして移動しようと身をよじって、けれども動こうとしない彼女に困ったように眉を下げた。

「…何か…悲しいことでも、あったのかい?」
「……」

答えない。でもそれが肯定のように思えたのは私だけだろうか?「冷えてしまうよ」と一言零して、でもまだ動こうとしない彼女をヒョイと抱き上げた。

「!」
「寒いから、ね」
「寒いから…?」
「いや、だってお前動こうとしないんだもの。だからちょっと移動するね。」
「……」

ズルズルと彼女を抱えて道を進む。すると今度は首に巻きつく細い腕。つい驚いて足を止めてしまった。

「…今日はずいぶんと甘えん坊さんだ」

クスリと笑って揶揄するように呟けば、少しだけ顔を上げた彼女。一瞬だけ不機嫌そうに眉をひそめて、それはすぐにそらされてしまった。

「私だって…」
「ん?」
「たまには…甘えたい時くらいある…」
「!」

驚いた。
なるほど、何だかんだ言ってこの子も子供ということか。最近は鶸や露草ばかり構っていたから、もしかしたら拗ねていたのかな?それを証拠とでも言うように、今は二人とも散歩やら昼寝やらとここにいない。
そう思うと何だかおかしくてつい口元が綻んでしまう。寂しかった、なんて聞いたら機嫌を損ねてしまうだろうけど。
よしよしと頭を再び撫でて、日当たりのよい場所で腰を下ろす。そしてギューッとその体を抱き締めて、ゴロンとその場に横になった。草花の柔らかい匂いと腕の中にいる小さな彼女の温かさにゆっくりと息を吐き出す。抱き締める力を入れるたびに増す温かさについ表情が綻んだ。

「な、なな、何…っ」
「昼寝でもしようか」
「何で…」
「うん…眠くなってしまって」
「何それ…」
「お前もお休み」

背中をトントンと軽く叩いて、何気なく微睡みを促す。すると素直に目を閉じ頭を押し付けてきた。指先で細く柔らかい髪を梳く。暖かな日差しと彼女の体温が無性に愛おしく思えて、ただ静かに目を細めた。時折ふわりと香る花の匂い。それに再び小さく笑みを零し、私も目を閉じた。
日だまりの温かさが心地よい。



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どこまでも意味がない一品。単純にベタベタさせたかっただけ←

20091027

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