おはなし

□Tell Me!
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「突然何、お前。焼き鳥が食いてえの?」
「いや、違うから」

空五倍子をじっと見ながら言った露草につい表情が引きつった。先ほど白沢こと鴇から教えてもらった「とりっくおあとりーと」とか言う異国の言葉。彼曰く今日は異国の祭りの日で、その意味の分からない言葉を言って菓子を貰う日だそうだ。たぶん。だから試しに露草に使ってみたら彼は何をどう聞き間違えた…というより言葉そのものを知らないために頭の中で全く別の意味に自動変換してしまったらしい。

「鳥食いてえんだろ?」
「あ、いや…あー、うん。ごめん。忘れて。」
「…何だその哀れむような目は」
「何でもないんだ。本当に。強いて言うなら鴇に聞くといいよ。」
「………」

鴇、と呟いて彼は眉をひそめた。その表情は露骨に面倒くさいと言っている。そして同時にこの話題が面倒なものに違いないと悟ったのか、何ともわざとらしい話を変え方をした。

「ち、茶屋に行くか」
「うわあ…」
「何だよお前!その態度」
「うん、いや、ありがとう。露草の奢りだなんて、その優しさについ目頭が熱く…」
「おい、ぱっと見判断に迷うがテメエのその震えは爆笑だろ。」
「あれ、気付かれた…」
「テメエ殴るぞ」

怒った。本気で拳を握り締めるものだから、慌ててヒラリと身をかわす。すると聞こえる小さな舌打ち。…本当に殴る気だったんだ…。危ないなあなんて他人ごとのように思いながらせっかくだからと歩き出す。

「おいどこ行くんだよ」
「どこって、茶屋行こうって露草誘ってくれたでしょう?」
「べ、別に誘ってねえし!」
「ははは!せっかくだし行こうよ。私奢るから」
「女になんか奢られたくねえよ!テメエのもんはテメエで金くらい払う!」
「可愛くないなあ」
「男に可愛さ求めんなバカ!」
「はいはい」

クスクス笑いながら頷けば彼はバツが悪そうに表情を歪めた。そして二人して歩き出す。途中で梵天や空五倍子に何も言わないでいいのかと聞けば、彼はあんなやつら関係ないだの邪魔なだけだのと悪態をついた。どこまでも反抗的なこの態度には毎度ながら呆れてしまう。苦笑しながらそうかもねと曖昧な肯定の意味を紡いだ。

「せっかく二人きりだしねえ」
「な、なんだよ」
「いや、逢い引きもいいかもね」
「なっば、バカ!ああああ逢い引きなわけあるか!このバカ!」
「はいはい」

ちょっとからかいの意味をこめて言ってみれば期待を裏切らない見事な動揺っぷり。顔を真っ赤にしながら言う彼につい笑ってしまえば、ますます語調を荒げる。それを隠すかのように私の前を行く彼の歩く速さが増した。そして開いてしまう間を慌てて小走りで詰める。相変わらず赤いままの顔に口元を緩めながら隣を歩いた。

「露草速いー」
「お前が歩くの遅いんだろ!」
「そんな速く歩かなくたって茶屋は逃げないって…」
「おまっ…ーったく!」
「わっ」

突然立ち止まったと思うのと同時だった。突然片腕を掴まれ、そのまま引きずられるように歩く。後ろから見た彼の耳が真っ赤に染まっているのを見て、静かに笑みを零した。


/end

*******
露草をからかって終わってしまった感じが…。


20091012
 

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