おはなし

□No sweets No pleasure!
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「トリックオアトリート!」
「何だいその無様な発音は。全くもってなってないね。そんなんじゃ外国行ったって使えやしないよ。」
「っち、違うし!」

まず着目点が違う!ムッとして目の前のしれっとした顔に眉をひそめた。しかし確信犯である彼にはそれが全く無効化。わかっていながらも振り回されてしまうのだから、私は学習能力が低いなあ、なんて。嘆かわしいというか苦い現実を噛み締め思わずため息を零した。すると当然その小さな行動を彼は見落としもせず、更に私のはらわたを煮え繰り返すがごとくに言葉をたたみかけるわけで。

「君の学習能力の無さは嘆かわしいね。」
「…ああ、そうですか…」

ピンポイントで怒りに触れた。コイツ…!いかにも「顔に出てるんだよバカ」と暗に伝えてくる不適な笑みが憎たらしい。しかしここで梵天のペースに乗せられたらそれこそ私はただのバカだ。怒りにフルフルと震える拳を背中に隠し、表情には無理矢理と呼ぶにふさわしい笑みを貼り付ける。
そして携帯を開いて待ち受け画面を彼の目の前に突き出した。

「君の待ち受けに興味なんてないよ」
「私も貴方に待ち受け見せるつもりありませんよ。」
「じゃあ何」
「日付見て。今日何日。そしてさっき私が言った言葉を思い出して!」
「ハロウィンだねえ」
「そうだよ!だから…」
「外国の祭りなんか日本じゃ無効だろう」
「な…!」
「君は小学生か何かかい?そんな年になってお菓子一つで喜ぶなんて…。そんなに欲しいなら銀朱のところに行ってきなよ。」
「なんでそう祭りを楽しむ純粋さがないかなあ?」
「君が単純なんだよ。」
「私はあんたに夢がないと見た」
「ねえ、本当にバカなの?」
「うっわあ、殴り倒したい」

パタンと携帯を閉じてポケットにしまい込む。目の前にある顔は相変わらずのポーカーフェイス。いつだって私ばかりが振り回されてる。それが悔しくてつい対抗しようと食ってかかるが、結局いつも私が苛立ってばかりだ。
あーあ、つまらない。
つい無意識に吐息をつけば、すっかり冷え切った風が体に体当たり。それにぶるりと身を震わせてポケットに両手を突っ込んだ。

「…仕方ないね」
「!」
「はい、あーん」
「え、なに……、…!」

ポイッと。意味がわからず言葉を紡ぐために開いた私の口の中に何かが放り込まれる。驚くのもその一瞬で、次いで口の中に広がった甘さに目を丸くした。ああ、飴だ。まさかの予想外の行動にキョトンとしていれば、彼は「この間ライブハウスでDJやってね。その時もらったのがバッグに入れっぱなしだったんだよ」と。なるほどなんて納得してしまうのは、彼のペースに乗せられている証拠だろうか。
とりあえず口に広がる甘さを舌で転がしながら楽しんだ。そして「ありがと」と一言返して彼を見る。

「飴玉一つで喜ぶなんて。君は本当に単純だねえ。」
「小さな幸せや楽しみこそ人生には必要なんだよ。」
「…楽しみ、か。」
「ん?」

ニヤリと、笑む彼の顔。何か企んでるなコイツ。そう思うとほぼ同時だった。

「Trick or treat」
「はいどうぞ」
「!」

それはもう流暢に口から飛び出した言葉に速攻ポケットに入っていた飴を突き出した。毎年毎年同じ手にかかると思うなよ。ニッと笑ってみれば彼は驚いたようにキョトンとした表情をする。しかしそれは一瞬にして呆れたような表情に変わった。

「少しは学んだじゃないか。」
「飴だけどね」
「芸がないね。女のくせに。」
「そっちだって貰い物の飴じゃない」
「君だってそこらのコンビニであった飴だろう?」
「小さな幸せを噛み締めたまえ」
「…君ねえ…」

再び呆れ顔で吐息をつく彼の前をカラカラと笑いながら歩き出す。そして再び吹き抜ける冷たい風に、一度立ち止まりギュッと身を縮こまらせた。

「…さっさと帰るか」
「うん、寒い」
「ほら」
「どうも」

不器用に差し出された片手に自分の手のひらを重ねる。私よりも幾分体温が高いそれは、冷え切った指先をジワリと温めてくれた。



/end

++++++++++

ちょい甘くしてみたり。

20091008
 

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