story

□藍鼠
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※パロ

ちょうど保健室の入り口に立って見える位置にある窓辺の花瓶。差し込む陽は淡く柔らかくそれを照らしているのに、しかしささっている花はまるで矛盾していた。青々しさもみずみずしさも忘れた一輪の花。カサカサに乾いたそれはみすぼらしく色がくすみ、花びらはほとんど散っていた。あーあ、なんて大袈裟にため息をつきながら、その空間の主のもとへ歩を進める。

「何ですかあれは」
「ドライフラワーです」
「ドライって…先生…」

明らかに枯らしただけだろう。ここに持ってきた当初の面影はどこへやら。綺麗な白だった花弁は黄ばみ、また茎や葉も変色している。確か私が一週間程度前に持ってきたばかりのはずなのに、もう枯らしてしまったらしい。…まあ、こんなの初めてじゃないけど。すでに予測していた私の左腕には、綺麗に咲き誇る新しい花。蕾もいくつか残っている。

「おや、また持ってきてくれたんですね。ありがとうございます。」
「どういたしまして」
「どうもこの部屋は花が枯れやすくてねえ」
「…藍鼠先生が単に枯らしてるだけじゃないですか」
「人聞きの悪い。私は仮にもこの保健室という空間が少しでも安心できるよう常に気を配っていますよ。だから花を飾っているんです。」
「私が持って来なきゃ花なんて飾らないくせに…」
「何かいいました?」
「いいえ何もー」

枯れた花がささった花瓶を手に取り、入り口にある水道に向かう。透き通ったガラスの花瓶から花を抜き取れば、無残にパラパラと葉やら花弁からが崩れるように落ちた。それに思わず眉をひそめる。まったくもう。どうしてこの先生は花を枯らすのがうまいのだろう?再びため息をつきながら花瓶に残った水を流し、持ってきた新しい花をさす。そして水を入れ直して花瓶を元の定位置に戻した。


「これでよし、と…」
「コスモスですか。今の時期は綺麗ですからねえ」
「今度はすぐに枯らさないでくださいよ?」
「それは花の根性次第でしょう」
「いや、先生次第ですからね?」

そうでしょうか、と首を傾げられつい頭を抱えてしまった。飾っても世話をする気がないなんて。ドスンと近くの椅子に腰を下ろし、藍鼠先生と向き合うような体勢をとった。

「そういえば、」
「?何ですか先生」
「いえ、ちょうど今お茶を飲もうかなと用意していたんですよ。せっかくですし飲んでいってください。」
「!ありがとうございます」
「花のお礼です」

ニコリと笑って立ち上がり、先生は奥の方へ行く。ぼんやりとその背中を眺めていれば慣れたように手早く入れられた紅茶が目の前に置かれた。フワリと鼻孔をくすぐる良い香りに表情が緩む。

「おいしいです」
「そうですか。ありがとうございます。」
「ねえ、先生ってもしかして花嫌いなんですか?」
「え?」

途端に丸くなる瞳。キョトンとしたその表情はひどく幼く見えて、なんだかおかしくなってしまう。

「いや、先生が花を枯らす理由をちょっと考えてみただけです」
「そうですが、別に嫌いじゃありませんよ?」
「好きでもない?」
「いえ、でも…」
「?」

不意にカチャリとカップを置き先生が立ち上がる。意味がわからずその様子を眺めていれば、その人は束になっていたコスモスを一輪手にとった。

「自分で持ってきて飾るのはつまらないでしょう?」
「!」

不意にこちらに伸ばされる手。思わず驚いた目を見開けば、耳の辺りに添えられたコスモス。




「楽しみにしてるんですよ。貴女が来るの。」




ああ、こんなの反則だ。
赤くなった頬を隠すように俯いた。






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初藍鼠さん夢!保険医パロですが何やら微妙な…(汗

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