story

□露草
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「ほら、泣かないんですよ」

先ほどからずっとぐずっている幼子の頭を優しく撫でながら必死に宥める。大きな青い瞳からは大粒の涙が零れ落ち、しゃくりあげて乱れている呼吸が楽になりようにと背中をさすった。

「びゃく、ろく、が…」
「大丈夫ですよ。じきに目を覚ましますから。」

傍らにいる、冬眠のために目を堅く閉ざした白い大蛇に視線を向ける。何度も呼びかけても反応しない彼に、この子は死んでしまったとでも勘違いをしたのだろう。泣きじゃくりながら白緑にしがみつくこの子を見つけたのは半刻も前だ。その間ずっと露草は泣きっぱなしで、ひらすら事情を説明してもなかなか泣き止まない。その上通りかかった鶸が「放っておけば」と一蹴するものだから非常に困った。


「白緑ならちゃんと生きてますから」
「でも、動かっな、い…っ」
「寝ているだけなんですって」
「動かないぃ…っ」
「大丈夫なんですよ」


うわああとさらに声を上げて泣き出すこの子に、頭を抱えてしまう。
どうしようもなくてよしよしと抱き締めながら頭を撫でれば、必死に小さな手がしがみついてきた。
白緑にしか懐かないこの子がこんな風に手を伸ばしてくるなんて珍しい。
しかしそんな呑気なことを言ってられない。
さらに声を大きくする露草に、白緑がいつもしていたように抱き上げた。


「大丈夫」
「…っう…うう、」

ポンポンと背中をさすればギュウッと首に腕を回してくる。…ああ、首がしまってる。苦しいなんて思っていれば涙でグシャグシャになった顔も肩に押し付けてきて、そこからじんわりと熱が広がった。けれども予想に反したその子供らしい一面は甘えられているようで悪くない。あの白緑が親バカになるのも一理あるな。なんてクスリと笑みをこぼした。

冷えた空気が満たす中。
両腕の中にある小さな体温を優しく抱きしめ、ゆっくりと歩き出す。すると数回しゃくりあげた後露草は泣き疲れてしまったのか、少ししたらすっかり泣き止んで寝息を立て始めた。
それに思わず表情が綻ぶ。
いくら偉大な樹妖の枝葉といえど、この子は幼子に変わりない。
小さく柔らかい温かさはどこか脆く弱く感じる反面、この身の内にはいつしか大きな世界を作り、たくさんの妖を守る強さが秘められている。
ならばそう成長するまで、護ってやるのが護人の役目だ。





願わくば、小さな貴方のぬくもりが消えないよう。




/end


20090919
 

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