story
□白緑
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背後からギュッと隙間なく抱き締められれば、ひんやりとした冷たさが全身に波紋する。僅かながらも震えている手首を手のひらで包んでみれば、じんわりとした冷たさが身に凍みた。
吐き出す息が白い。
「もう寝た方が」
いいんじゃ。後ろを振り向きながら言えば彼は頭を必死に左右に振る。そしてさらに力の加わる腕に思わず苦笑した。
ああもう、これじゃあまるで幼子だ。
寒さに弱い彼の体はもう限界だろうに。気温が下がれば体温も下がる。冷え切った空気に冷え切った体。目を閉じるその様は呼吸のため動く胸がなければ屍同然のものだった。…最も、そんな彼の姿を毎年見守るのは不安と待ち遠しさでいっぱいなのだけど。
でも起きていたら起きていたでこの様なのだ。私は気温の変化には疎いから平気なのだけど、彼はそうじゃない。寒さに震えの止まらないその体に、まるで体が徐々に凍り付いていくように動きが鈍くなる四肢。あまりにつらそうで、見ているのが辛い。
氷のように冷たい彼の腕を、少しだけでも温めようと握ったりさすったりする。そのたびにすり寄せてくる彼の顔というか、首に当たる髪がくすぐったかった。
「白緑、」
「…さむ…い」
「もう寝た方がいいですよ」
「大丈夫…まだ…」
「鶸と露草ならちゃんと面倒見ときますから」
「……」
「心配なんて、」
しないでくださいよ。笑いながら言えば彼はそっと体を話した。同時に先ほどまで冷えた空気に触れてなかった肌にヒシリと冷たさが這う。思わず身震いしながら彼を見据えた。
「お前も寝ればいいのに」
「私は冬眠しないので」
「お前は本当に温かいね」
「冬眠しない獣は皆温かいですよ」
鶸だって温かいでしょう。
軽々しく私を抱き上げ寝床に向かう彼にクスリと笑う。するとそうだねえ、でも鶸は嫌がるからと彼は笑った。そして不意に私を見据え、呟くように言った。
「…本当はね」
「!」
「私は眠るのが怖いかもしれない」
「……?」
「…寝ている間に、お前たちがどこかに消えてしまうかも…」
「はは、そんなわけないでしょう?」
「保証できるのかい?」
「ええ…できますよ」
私は抱き上げられた状態のまま顔を覗き込まれ、思わず苦笑する。白緑は相変わらずのキョトンとした表情のままじっとこちらを見た。それがおかしくてつい笑ってしまう。そしてひとしきり笑ったあと、コツンと彼の額に自分の額を合わせた。
「なんだい?」
「いいえ」
「だがどうして保証できるんだい?」
「!」
「気になる…」
「…そうですねえ…」
うーんと目を瞑りわざとらしく考える仕草を見せる。白緑は相変わらずの表情だ。ひたすら答えを待つ彼に観念し、笑みを浮かべながら答えを紡いだ。
「みんな貴方が大好きだから、ですよ…」
「!」
すると一瞬だけ丸くなる金色の瞳。そして無邪気なまでの笑顔を浮かべて、彼は言った。
私も大好きだよ
/end
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無駄にベタベタに甘くさせてみた←
20090919