story

□白緑
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「子供の成長とは早いものだねえ」


なんて隣で寂しいんだか嬉しいんだか分からないような顔をして白緑が言う。
その視線の先を辿れば、そこにはいがみ合っている鶸と露草。
時折風に乗せ聞こえるバカだの単細胞だのという単語から、成長したのは体だけのように思えたのは私だけだろうか。
どちらにしろ体さえ成長すれば生きていけるのが妖か。



「あの子たちはいずれ私の元から離れていくのかな」
「いきなりどうしたんです」
「獣妖に必要なのは自分で餌を取って自分で自分を守って生きていくことだから」
「………」
「それだけの力を身につけたら、あの子らに私は必要なくなるのだろう?」
「寂しいんですか」
「自分の子供だもの」
「親バカ…」


そして露草は樹妖です。
そう付け足して言えば、彼は軽く苦笑する。
するとちょうどケンカが終わったところなのだろう。
鶸と露草が互いに罵り合いながらボロボロで帰ってきた。
そしてまだまだ幼い露草は白緑の膝の上に座り鶸を見下すように睨みつけ、鶸はそんな露草を下から睨む。



「こらこら、ケンカばかりしてはいけないよ」
「だってひわがばかだから」
「ああ!?」
「なんだよばーか」
「口を開けばバカバカバカバカ、あんたそれしか言えないわけ!?本当に低脳だよね」
「おまえよりかしこいもん!」
「つーゆーくーさ」
「!」


白緑が露草の頭にポンと手を乗せ、諭すように見つめる。
それに露草はそっぽを向いて頬を膨らませた。
その様子に鶸がいい気味だと皮肉たっぷりに笑む。


「鶸もだよ」
「フン」


そして白緑が諭すように視線を向ければ、彼もまたそっぽを向いてどこかへ行ってしまった。
全く、余計なところばかり似て。
二人の様子にため息をつけば、白緑は元気だなあなんて笑っているのだから呆れてしまう。


「子離れできそうにありませんね。その様子じゃあ」
「そうだね」
「ハハハ、親離れも子離れもできないのが天座の白緑なんて、とんだ泣きどころですよ」
「…だって寂しいじゃないか」
「…何百年も生きてて何いってるんですか。子供なんて本来さっさと親元を離れてしまうものですよ」
「………」
「気に障りました?」
「いや…じゃあお前はどうなんだい?」
「はい?」
「私の親でも子でもないのに、私のそばにいるお前はどうなんだい?離れてしまうのかな?」
「!」


あまりに意外な一言に拍子抜けだ。
キョトンとした様子で彼を見れば、彼はただじっと答えを待っている。
それに少しだけ考えるように間を置いた後、苦笑を浮かべて言った。





「貴方が良いのなら死ぬまでおそばにいますよ」
「!わあ、それは嬉しいね、是非とも頼むよ」
「軽いなあ」
「これでも今が満足だからね、これからさきもずっと同じだと幸せかな」
「アハハハ」



声を上げて笑えば、彼はそういうのも好きかなと笑う。
そして膝の上にいた露草がいい加減かまって欲しくなったのか、白緑の長い髪をグイグイ引っ張った。
それに痛い痛いなどと連呼しながらも、彼の顔はいつだって破顔している。
ああ、本当に子離れなんてできないんだろうな。
そんなことを思いながらも、今がいつまでも続けばいいななんて思ってしまう自分がいる。




いつだって、そんな些細な幸せがあれば私は十分なんだ。




end



20090819


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