泡沫−ウタカタ−

□甘い毒牙
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鼻孔をくすぐる甘い香りに、恍惚と吐息を零した。
熱く吐き出した吐息は白い首筋を撫で、より一層香は甘さを増す。
そうして熱に乏しい手のひらで柔らかな頬に触れれば、じんわりと彼女の体温が手のひらから伝った。



「、白緑…」



かすかに眉をひそめながら、彼女は自分を見据えた。
その声音からは不機嫌さが滲み出ている。



「フフ…、ずいぶんと不機嫌だね…」
「……絞め殺す気?」
「………」



静かに彼女は視線を落とす。
そこにあるのは、女の胸部から下に巻き付いた、白玉の鱗を纏う太い大蛇の胴。
少しでも力を入れればいとも簡単にその体は折れてしまうだろう。
それをわかっていながら、ゆるく彼女を捉える力を強めた。




「…苦しいんだけど…」
「………」
「白緑、」
「…大丈夫…」



言いながら、彼女を締め付ける蛇の胴とは裏腹に、優しく彼女を抱き締める。
そしてその白い首筋へゆっくりと顔を埋めた。


「………」


甘い香りが鼻孔を満たす。
まるで脳をとろかすように。
ゆっくりと呼吸器を満たし、じんわりと染み渡っていく。
その感覚に牙が食らいつきたいと疼き出す。
甘い血の美酒。
柔らかな肉。
嗚呼、美味そうだ。
きっとこの女は何よりも美味だろう。
今この場で一飲みにしてしまいたい。
噛み砕いて、肉の柔らかさを楽しみ、血の甘さを味わい、その存在を深く取り込みたい。

欲望のままに一飲みにしてしまうのは、とても簡単だ。

けれど、




「!」



その白い首筋を舐めあげれば、途端に一瞬だけ肩がビクつく。
それに口端を釣り上げ、再度舌を肌に滑らせた。


殺してしまうのは、まだ早い。


どうせなら飽きるまで。
どうせならもう少しそばに。
無に返してしまうには、早すぎる。
今の彼女に生きる価値≠見出しているから。

時折感じるたまらない愛おしさに、幾度となく焦がれた。




「お前は私のものだよ…」



囁き、笑む口元から覗く鋭い牙。
彼女は自分を見詰めて、ただ儚げに笑んで見せた。




「嗚呼、狂ってる」



こんな形でしか他人を愛せないなんて。
それはただの餌でしょう?
どうせ喰うのなら、青い実より熟した甘い実?
今の私は未だとるに足らない存在ということかしら。
未だ貴男が望む存在には遠いということかしら。
ああでも、貴男に望まれたその日に私はただの肉塊になるんでしょう。
人としてではなく餌として死んでいくなんて馬鹿馬鹿しい。
吐き気がする。
でも、それでも逃げる気にならない私も狂ってる。
蛇の餌に自らなりたいなんて。
目の前にある、獣の割れた瞳孔に目を伏せた。




白い首筋に牙を突き立てる。
口内に広がる甘い血の味。
彼女の香り。
赤く咲き誇る所有刻印。






アナタを、アイ、してる





先に毒に侵されたのはどちら?




▼あとがき

嗜好に走った結果白緑でまさかの狂愛。
趣味丸出しですね←
ですが危険な思考で誰かを愛する彼もいいと思います(爆)
白緑パパはパパとしても危険なお相手としても書けて万能ですね(笑)



20090802
 

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