泡沫−ウタカタ−

□花咲く微睡み
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ああ、またこれだ。
少しでも目を離すとすぐにこうなる。

当の本人こそ全くの無自覚ではあるが、あまりに頻繁に言いつけを破るものだから怒りを抑えることもできやしない。
だが反対に無自覚であるが故に素直に謝るものだがら、説教自体がいつも中途半端になってしまう。

これでは明らかに甘やかしているようなものだ。
だが彼女に故意がない以上、必要以上に責め立ててもむしろ何故かこちらが沈んでしまう。


一人眉間に皺を寄せ、ただ悶々と目の前で正座する少女を向かい合っていた。





「あ…あの…?」
「………」
「ぼ…梵天…?」
「…はあ…今日はもういいよ」
「!」



…また今日もいつもの悪い癖が出てしまった。


最終的に黙り込んだ末の結論がお咎め無しの許しだ。
そのたびに笑う彼女の表情に、なんとも形容し難い感情に襲われる。




「死にたいなら別にいいけど、そうじゃないなら勝手に俺の符を外すんじゃないよ」
「は、はい」
「これで何度目なんだか…。
君は強くない妖なんだから、簡単に俺の符を外したら一発で他のに喰われるよ」
「…く…喰われる…」
「いつか見るも無残な姿になってそこらに転がってるところを空五倍子に回収されるだろうね」
「……!!」




そう言うなり、彼女は青ざめた顔で両手で頭を抱える。
人の姿をしているとはいえ、大した知恵を持たない、人の姿をしてるのも珍しい弱い女妖だ。
理性よりも感情に傾く彼女の仕草は、なんとも素直で見ていて面白い。




「も、もう離さない。符はちゃんと付けとく。喰われたくない。」
「はいはい」
「私、不味いもん。」
「いや、俺は君みたいな間抜けを喰うほど飢えてないよ?」
「符、ちゃんと持ってるよ」
「…あー、はいはい、いい子いい子。」



適当に頭を叩いてやれば、彼女は再び笑顔を浮かべる。

それに緩みそうになる口元を誤魔化すように、彼女からそらし向けた視線の先には、部屋に射し込む一縷の光。
暖かなそれに、かすかに目を細めながら視線を彼女に戻した。

同時に胸中に広がる温かさ。
穏やかさがいざなう微睡み。


未だ正座したままの彼女の前に腰を下ろし、その膝に頭を投げ出した。





「!」
「…お仕置き。俺が起きるまで枕ね。」
「…眠い…」
「……君はまだ寝ちゃダメだよ」




下から覗き込んだ彼女の表情に思わず顔が綻ぶ。
不思議そうに自分を見詰めるその顔を見詰めながら、そっと瞼を閉じた。

「おやすみなさい」という小さな声が鼓膜を揺すり、髪をなでる心地良い感覚が伝わる。





微睡みに身をゆだねれば、幸せな夢を見た気がした。







/end


▼あとがき
うわわわわ(汗
なんてグダグダな…!

20090723
 

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