◆駄文部屋
□お帰りなさいの口づけを
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お帰りなさいの口づけを
今夜も仕事がようやく終わり、やっと家路につく。
全く、ファンだと言ってくる日もくる日も待ち伏せされたらたまったものじゃない。
見つからないようにファンを巻くのは造作もないが、如何せん数が多いと少し骨が折れる。
じっとりとした熱のこもった空気が肌に纏わり付く。
ああ…今夜も暑い夜だ…
小さく息を吐くと、見慣れた扉に手をかけた。
ガチャリと音を立てて扉が開くと、待ち望んでいたように子ネズミ達が肩に駆け登ってきた。
「ただいま…ん?紫苑は?」
いつもなら子ネズミとともに迎えてくれる紫苑の姿が見当たらない。
少し心臓がヒヤリとしたが、子ネズミ達に慌てた様子はないため、そのまま部屋へと入った。
「…全く…無防備な坊ちゃんだな…」
本を読みながら寝てしまったのか、中途半端にページが開かれたままになっている。穏やかな寝息を立てる紫苑に笑みが零れた。
「おい…紫苑…紫苑!」
このままでは風邪を引いてしまうと、起こすために声をかけるが、余程疲れていたのかぐっすりと眠っていて一向に起きる気配がない。
「………」
幸せそうな寝顔。
ついつい、悪戯心が疼いてしまう。
「紫苑…」
「しーおーん!」
「…はぁ…キスするぞ?」
耳元で囁いてみるものの、小さく身じろぐだけで全く起きない。
「………いただきます。」
誰に言うわけでもなく呟くとゆっくりと薄く開いた唇に口づけた。
「ん…」
小さく零れた吐息にどうしようもなく欲を煽られた。
最初は唇を合わせるだけの軽いキスだったのだが、起きないのをいいことにゆっくりと舌を口内へと忍ばせる。
「んっ…ふ…」
ゆっくりと紫苑の舌を絡めながら味わうように好き勝手に口づければ、苦しくなったのかようやくうっすらと開いた目。
「ん…ぁ…んんっ!?」
状況を把握したのか目を見開き、ドンドンと胸元を叩く。
「…おはようございます。陛下」
にっこりと満面の笑みを浮かべれば、息を乱した紫苑が睨みつけてきた。
「なっ…な、何してるんだよっ!!」
「何って…キスだけど?」
しれっと答えれば真っ赤な顔をますます紅潮させた。
「だ、だいたい、ひ、人が寝てる時にっ…」
「紫苑、ただいま。」
「うぁっ…えっと…お、お帰り…なさい」
「ほら?紫苑、お帰りのキスは?」
「っ!!き、君は…ズルイ…」
「なんとでも。」
ククッと笑い紫苑を抱き寄せれば、そろそろと背中に回される腕。
「さぁ陛下?お帰りのキスを」
「っ〜!!…お…帰り…」
真っ赤なままちゅっと可愛らしい口づけをする紫苑。
「…ただいま」
可愛い君の唇に言葉も気持ちも込めて全てくださいな。
さぁ、お帰りなさいの口づけを。