草書

□憐愛
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これは顔を見られたく無い時の隊長の癖だ。何も変わって無いのに…。一気に寂しさが込み上げてきた。文句の一つも言ってやりたいのに…。
怒りや、恥ずかしさなんて自分の感情は吹っ飛び、隊長への愛しさだけが残った。

 ギュウッときつく僕を抱き締め、頭に頬を乗せてきた。
「そや、いい機会やし、ギンって呼んでや。」

無駄に明るく語りかけられて、また涙が零れた。
「無理ですよ、僕にとって市丸隊長はずっと隊長です。」

僕も頑張って明るく答える。いけずやなぁ…と耳元で溢され、愛しくて仕方なくなった。
心地よく沈黙が流れる。そうだ、隊長と二人の時はお互いこんな感じでずっとくっついてたんだ…。ほんの少ししか離れていなかったのに、懐かしい。

「ゴメンな…。イヅルの事やからいっぱい悩んだやろ?」

抱き締めた腕が少し震えた気がしたのは、気のせいでは無いだろう。

僕は小さく頷き、隊長の次の言葉を待つ。
「イヅル…ボクな、イヅルには綺麗で居て欲しいんや…。汚い事なんて一個もさせたない…。」

こんな切ない台詞なのに…何故貴方の手は僕の着物を脱がしにかかるんですか…?
「隊長…?」
じと〜っと上目遣いでみる。
阿散井君なんかは気持ちわりぃ!って言うこの視線さえ、イヅル可愛いなぁ、と流してついには帯まで解いてしまった。


「隊長…何を…?」

ヒクヒク僕の頬がひきつっているのを無視して彼は完全に僕を脱がせた。

「ほら、イヅルはこんなに綺麗や。」

白い肌、目立つ傷なんて隊長が残した紅い花位だ。自分では青白くて白蛇みたいな肌だと欠点のつもりだったけど… 全部、どこもかしこも隊長は誉めてくれて…今ではこの体で良かったと思えるまでに洗脳された。

「ん〜?だってイヅル抵抗せぇへんかったやん?」

それに…と人の悪い笑みを添えて、して欲しかったんやろ?と囁かれた。

「なっ!ちが…」

「違わへん。ボクはイヅルの事なら何でも知ってるんや!」

得意そうな顔をして断言されてしまった…。こんな所が可愛いなぁ、と思う。
「全く…貴方には敵いませんよ。」

一人だけ裸なのが心許なくて、隊長に抱きついた。

「せやせや、人間素直が一番や、死神も…な。」

ゆっくりと僕の首筋に回された手に身を委ね、僕は目を閉じた。
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