草書
□狂気
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「市丸隊長…。」
今日もそう呟いて目が覚めた…。
一体何回僕はこうやって貴方の温もりのない褥に絶望しながら目覚めるのだろう…。
「会いたい…。」
叶わぬ願いと知っている。愚かな望みだとも…。でも、願わずにはいられない。
だって、僕は貴方という存在を知ってからずっと、貴方だけを目標に、貴方だけを見つめてここまでやってきたから。
「はぁ…。」
貴方がいなくなってから、僕には布団を撫でる癖が出来ました…。貴方の胸元をかつては撫でた右手…。
撫でる物を無くした右手はもういらない。
貴方がいなくなって僕の左手は僕の頭をよく撫でるようになりました…。
貴方がよくしてくれたように…。
こんな左手でも代用出来るんですね…。
貴方がいない!何故だ!何故僕を置いて行ったんですか!
「たい、ちょう…。」
もうこの声に応えてくれる人はいない!ならこんな声いらない!
………あぁ…そうか。僕がいらないんだ…。
「隊長…。」
誰も応えない!他の隊長に返事なんかされても気が狂う!僕には貴方しかいない!貴方だけが僕の隊長…。
貴方だけが愛しい…。
「…っく…。」
毎朝の恒例だと醒めた自分の声がする。
貴方を思い出し、独り声を殺して泣き、独り自分の躯を抱き締める。
何故だ!僕には死ぬ勇気すらない!いつか隊長にまた会えるかもしれないと儚い希望がある為に!
何故…こんなにも貴方しか無い僕を置いて行ったんですか?せめて殺してくれれば良かったのに…。
「狂ってるよ…。」
自嘲しても収まらないこの胸の痛みを!毎日のように襲ってくる吐き気と頭痛…。
何より!貴方のいない隊舎に籠るこの苦痛…。
気を失ったように眠る僕は今、睡眠薬が無いと寝れない躯なんです。
貴方といる時はあんなに穏やかに訪れていた睡魔さえも今の僕を見放している…。
隊長…隊長…隊長…。こんなにも頭の中は貴方でいっぱいだ!
「殺してやりたいっ…!」
僕を置いて行った貴方!何て憎らしい。僕の心をかっさらったまま消えた貴方!八つ裂きにしてしまいたい!
こんな激しい感情が僕にもあったと知らしめた貴方が憎らしい。
「隊長…。どうしてくれるんですか…?」
こんなにも愛しくて、憎らしくて…。結局貴方が欲しくて!貴方を見つめたくて!
こんな貴方を映せない目なんていらない!貴方の声が聞けないなら耳すらも!
感覚の全部いらない!いらない!いらない!いらないんだ!
…もう、無理なんです。隊長…。貴方のいない時を過ごせません…。
なのに!希望が邪魔をするんです!どうしたらいいんですか…?
「た…い…ちょ…う…。」
またやってしまった…。僕の胸元の見えない部分はこれ以上無いくらい血だらけになっていた。毎朝、この感情に引き摺られるままに爪をたてるから…死神の治癒能力をもってしても完治ができない程にズタズタだ。
「はは…っ。」
笑いが口をついて出る。
…行かなければ。貴方のいない三番隊に…今日も…。
いつか、このまま自分の心臓をえぐり出しそうです…。
隊長…。僕を助けて下さい…。