草書
□追いかけっこ
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…朝から隊長の姿を一度も見ていない。絶対フラフラどこかに行っている…。
「あ、吉良さん、おはようございます。」
隊員達が挨拶してくれるが、おはようと生返事で返して考える。
…あの人は色んな隊舎に行って茶化しすぎなんだよ。どこにいるかわかりゃしない。
「おい、吉良。」
大体、昨日だって昼にはもういなくなってたし、仕事は半分終わってたけど…。
「吉良!」
一体何をしてるんだ!あぁ…また胃が痛くなって来た…。
「吉良!」
「わぁ!」
目の前にいきなり阿散井くんの顔がどアップで飛び込んで来た。
「ななな、何?!声位かけてよ!」
「…あのなぁ…呼んでも無視してたのはお前だ…。」
呆れ顔で言われても、全く呼ばれた記憶が無い。
「何をそんなに一生懸命考えてやがった?」
ホレ、と6番隊の書類を渡された。
「何って…。」
隊長の行方だなんて答えたらバカにされるのは火を見るより明らかで、別にと答える。
「…は〜ん…雛森か?恋ってやつか?」
「…は?」
何故恋=雛森くんの図式が出来ているんだろう…?
「阿散井くん…。雛森くんは関係無いだろう。」
「か〜っ、無自覚かよ。」
やってらんね〜、とブツブツ言いながら出ていった。
…隊長の事考えてたなんて言わなくて良かった…。
と言うか、この書類…期限明日までじゃないか!提出出来る訳無い!隊長を探さなきゃ!
「三番隊全員、仕事止め!今から全力で夕刻までに隊長を探せ!」
いきなり叫んだ僕に全員注目し、反応は二つに別れた。
少ない女性隊員は『キャー!』と嬉しそうな叫びを上げ、男共はウンザリな表情を作った。
「明日までにこの書類を出さないといけないんだ!
…提出先は…4番隊隊長…。」
言い終わるや否や隊室はもぬけの殻になった。全員瞬歩でいなくなったのだろう。
…彼女の黒さは折り紙つきか…。
僕も見習いたいものだと、腰を上げると
「はぁ〜、ボクも黒いって、よぅ言われるケド四番隊長さんには負けるみたいやなぁ〜」
聞き慣れたイントネーションにコメカミがピクッとなった。
「…たぁ〜いぃ〜ちょ〜」
ゆっくり振り向くと、顔の横でヒラヒラ手を動かし
「あら、怖い。イヅルも追っかけっこしよかぁ。」
と、瞬く間にいなくなってしまった…。
「い、今捕まえれば…!」
隊長ぉ〜!と叫びながら三番隊を後にした。
「いたか?」
「ダメ!10番隊にはいなかったわ。」
各自出会う度に情報交換を繰り返した結果か、何故かこんな事に地獄蝶まで使われる羽目になった。
「いい迷惑だよ…。」
またちょっと胃が痛くなった僕は胃を押さえながら隊舎裏に座り、全員三番隊に集合をかけた。
「少し遊びすぎたかぁ?」
「…全くです。今までどちらに?」
隣に座る気配に呆れつつ答えた。
「ん〜、隊舎の屋根の上〜?」
…目と鼻の先じゃないか…。
「で?追っかけっこは飽きたんですか?」
少し胃が楽になってきた。このまま隊長を捕まえて隊舎に戻らないと。
「いやぁ…。イヅルの顔色悪い気がして降りてきただけや。治ったんなら行く…」
最後まで言わせず手を掴んだ。
「…帰りますよ。」
「…捕まってしもたか。」
何故か嬉しそうに微笑んで、僕を立たせてくれる。
「まだまだ甘いで〜イヅル。」