SHORT

□Stormy Night
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さっきまでパラパラとしか降っていなかった雨はいつの間にか強くなっていた。
雨の中誰もいない通りを歩く。
家に帰るわけでもない、どこか行くあてもあるはずがない。
ただ、今はこうして雨に打たれていたかった。



彼からの話は突然だった。



「別れよう」



嫌だった。あたしは、少なくともあたしは、ルッチとは決して終わらないと思っていた。4年前に付き合い始めて、恋人らしいこともいっぱいして、いつか結婚できると思っていた。
あたしの思い違いじゃない。昨日まで、いやついさっきまで、あたしたちは本当の恋人同士だったんだ。



なんでなんでなんでなんで。
ルッチはあたしのことを本当に愛してくれていた。あたしだけがそばにいる時は、いつもの無表情なんかじゃなくて、微笑んで、あの低い声で名前を呼んでくれていた。
二人の時のルッチも、普段のルッチも大好きだった。愛の言葉なんて囁かなくても、お互いの想いはわかっていた。
なのに、なんで?





広場のベンチに腰を下ろす。
雨はますますひどくなって、まだそんなに遅くないのに店は全部閉まっている。賑やかなはずの広場は雨の音しか聞こえない。



体も頭も冷えてきて、ようやくさっきの光景が思い出される。
別れを告げたルッチは固まっているあたしに近付いて、そっとキスをした。
触れるだけだけど、長い長いキス。
ルッチは一旦離れて、無言のままあたしを抱きしめて、離れるとキッチンの方へ消えた。
あたしは堪えられなくて飛び出して来た。



わかってしまったんだ。
ルッチの行動で。キスで。あたしを抱きしめる強さで。
ルッチは今でもあたしを愛してるって。
わからなければよかった。
突き放されて、傷付けられて、裏切られた方がよかった。
その方がずっと楽だったのに。



でも、同時に救われた。
まだ、あなたのこと、想っていていいよね。
この痛みが消えるまで。






雨が降る中、急に風が強くなってきて、雨が顔を横から叩く。
そっか、今年ももうそんな季節か。













Stormy Night
(数日後、彼は嵐と共に消えた)















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