LONG

□chapter.1
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パチ、と目が覚めた。
窓の外では町の音と小鳥の鳴き声、カーテン越しにはうっすら明るくなった空が見えた。


やっぱり違う世界になんか行けっこないし、ずっと眠ってなんかいられない。
まぁ現実なんてこんなもんよ。


目覚まし時計は9時過ぎを指している。
今日は11時から講義があるから、大急ぎで支度しないと。

カーテンも開けずに部屋の中を走り回る。ボロボロの化粧を直してしわくちゃの服を着替えてアイロンで髪巻いてノートを鞄に詰め込んで。
朝食も食べずに玄関のドアを開けた。











向かいの建物が高くなっている。

さすがに一晩で建物がにょきにょき伸びる訳がない。
しかもオシャレに白い煉瓦の壁になっている。


なにかおかしいな。


町の音がいつもと違う。
車の音、二つ角を曲がった家のうるさい犬の吠え声、聞き慣れたものは一切聞こえない。
人の話し声、足音、それからこれは…
水の音?


アパートの手摺りから身を乗り出し下を見てみる。(後で気付いたんだけど手摺りも微妙に違っていた)





川…
道の真ん中に細い川が通ってる。
それだけでも驚きだが、なんとその川で未確認生物が人を乗せて泳いでいる。それもうじゃうじゃ。



『…意味分かんない』



パッと後ろを振り向くと、ちゃんと自分んちのドアがある。
開けてみるとちゃんと自分の家。落ちている雑誌もテーブルの上の散らかり具合も昨日のまま。


家の中は普通なのに、外は一体どうなっちゃったの?
とりあえず家の鍵を閉めてアパートの階段を降りる。
とりあえず今は大学行かなきゃ。川よりも細い歩道に出て見上げてみると自分ちのアパートの外観も変わっていた。


ああ。
頭どうにかなっちゃったんだ。
どうにかなったのはあたしの頭だから、これは幻覚なわけで道とかは全て普通なわけであたしの目には川に見えるけどこれは道路。道路よきっと。


だったら踏めるはずだ!
よしやってみよう!



『ダーイブ!!』



ザッパーン!!!



まんま川じゃーん!


『きゃあぁぁ!ぐえっがふっ』


服が纏わり付いて思うように動けない。目の前を例の未確認生物が興味津々で見つめてくるが、乗っている人たちはだーれも助けてくれない。あたしを酔っ払いかなんかと思ってるらしい。


『なんて無慈悲な!ちょっ誰か……がぼっうおえっ……』


「朝っぱらから何をやっとるんじゃ!ほれ、掴まれ!」


やっと差し延べられた一本の腕、あたしは無我夢中でしがみつく。

「離すでないぞ!それっ」


あっという間に川から引っ張り出されて激しく咳込む。3日分の水飲んだぜこりゃあ。


『あ…ありがとうございますおげぇ…ごぼごぼ』


「いや、礼は落ち着いてから言ってくれて構わんかったが…何故に水路なぞにはまったんじゃ?」


『道だと思って…』


チラと命の恩人の顔を盗み見て唖然とする。




ピノキオ?
しかも髪の毛がオレンジでジャージみたいなの着てる。ああそうか。ピノキオも第二次反抗期か。あのおじいさん…名前なんだっけ…いいや…あの翁に反発してるんだよきっと。「うるせぇな、自分の髪の毛どういじったってかまわねぇだろうがじじいが!髪の毛引っこ抜くぞ!」みたいな。
あーでも。
じじ喋りだ。どゆこと?



「何ぼーっとしておる?」



『あっ、いえっ、何にもナッシングです』



「…朝っぱらから酔っておるのか…」



いやいや。これで素面ですよ、ピノキオ君。



「しもうた、もうこんな時間じゃ!こんなところで油売っていたら遅れてしまうわい」




ピノキオ…命の恩人はそばに落ちていた野球帽を被り、ピョンと立ち上がる。



もうこんな時間?



『あ゙あーっ!』


「今度は一体何なんじゃ!」


時計の針はもう10時前。
やばい!間に合わない!


『駅っ!駅ってどこですか!?』


「駅?駅ならずっと向こうの通りを左じゃが…その格好で行くのか?」


『はいっ!自然乾燥です!本当にありがとうございました!お忙しいところすみませんでした!んじゃっ!』


さっき言われた方向へダッシュダッシュダッシュ。
走りながら辺りを見回すとなにもかもが違って見える。
町並みも川を泳いでいるあの生物も空気の匂いも。
ホントのホントに世界はどうなっちゃったの?
でも今はそんなことより。


講義遅れたら留年になる!


























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