隣から聞こえる穏やかな寝息を乱さぬ様に、そっと寝室を後にする。カーテンから覗く光の眩しさに思わず目を細め、先に何か飲み物をとグラスを手に取り、水を注ぐ。
渇いた喉は潤ったが、別段する事も無く何かする気も起きない。

「……Jも未だ寝てるし」

もう少し惰眠を貪ったとて天罰は下らないだろう。再度、生暖かくなったベッドに潜り込むと、気怠さに包まれ乍ら眠気とも言えない感覚に捕われた。
Jに視線を向けると、端正な顔立ちに胸が高鳴る。考えてみれば、こんなに近くでまじまじと見詰めた事は余り無いかも知れない。
ふと、形の良い唇がゆっくりとを弧を描いた。

「――ふふっ。お早う、ミ・ハ・エ・ル・君?」

「J!起きてたんですか」

「ちょっと前にね」

「何で寝てる振りなんかしてるんです」

「だってミハエル君ったら面白いんだもん。流石に熟と見られたのは恥ずかしかったけど」

 この人はいつも一枚上手だ。単純な俺の考えなんてお見通しなのだろうか。そりゃ"育ってきた環境"も違うなら、仕事に戻れば立場だって違う。でも今だけは対等な恋人で居たい。同じ一人の人間として愛し合いたい。
ならばJが好きだと謂うこの思いも、其の儘に貴方へ伝わっていれば良い。

「あれは……其の……済みません」

「如何して謝るの?昨夜は散々僕の事……何普通に照れてるのさ、思い出さないでよ」

「正直、凄く可愛かったです」

「ここで謝らない辺りがミハエル君の図々しさを表してるよねーっ」

 えい、と頬を抓られる。
……割と強い力で。

「いひゃいれす」

「痛くしてるんだよ」

「本当に、結構痛いれす」

「やっぱミハエル君は弄られてる方が似合うよ」

「何ですか其れ」

 悔しさ半分、抵抗半分で、満足そうに笑うJをぎゅっと腕の中に抱く。
同性相手に可愛いと言うのも変だけど、自分より小柄なので自然と少し上目遣いなJは矢張り可愛らしい。

「……何だか、Jは良い匂いがします」

「うわあ、やらしー事言うなあ、先刻からミハエル君の癖に生意気――」

 唇に押し当てられた感触が接吻に因るものだと認識した時には既に、舌が絡められていて思わず吐息が洩れた。

「……っはぁ……ミハエル君、僕だって男なんだからね」

「俺は、煽られてるって解釈しますけど」

「お好きにどーぞ?」

 譬え死と隣り合わせの世界でも、手を伸ばせば"自由"に触れられる。
幸福は遠くない。けど貴方となら何処にだって行けるって――本気で、想ってるんですよ。























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